メダルの壁、気にしない 「トランポリン嫌い」な西岡―パリの灯は近く
「トランポリンが嫌い」。 そう真顔で言うのが男子のエース西岡隆成(20)=近大=だ。昨年の世界選手権で日本のパリ五輪出場枠獲得に貢献し、今年5月の代表選考会でその切符をつかんだ。高難度の3回宙返りを6度も入れた演技構成は、世界トップレベル。世界選手権個人は2021年に2位、昨年は3位に入り、初の五輪となるパリでもメダルが狙える。 【日程・競技予定】パリオリンピック 「嫌い」な理由はいくつかある。一つは競技性。1回の演技で10種類の跳躍を連続して跳ぶが、中断したらやり直せず、得点はがくんと下がる。長年の努力や入念な準備が本番のたった数秒で台無しになることもある。 もう一つは、積極的に選んだ道ではないこと。2歳で体操を始め、小学1年でトランポリンに転向したが、当時のことはよく覚えておらず、「物心がつく前から毎日練習していた」。中学生の頃、コーチに「やめたい」と漏らしたこともあった。それでも青春時代をささげて技を磨くと、才能が開花。高校2年の時に早くも全日本選手権で優勝し、「もうここしかない」と覚悟を決めた。 実は戦略でもある。一番目立つ自分があえて「嫌い」と言うことで世間の注意を引き、競技を少しでも知ってもらうため。「それで僕が嫌われても、たたかれてもいい。トランポリンのことが目に留まったり、有名になったりするなら」 五輪の日本勢は男女とも過去にメダルなし。男子は16年リオデジャネイロ大会などでの4位が最高だ。そんな「メダルの壁」も西岡は気にしていない。「五輪はびびらず攻め、肝が据わったやつが勝つと思う。だから大丈夫」 今は昨年の世界選手権からさらに難度を上げた演技構成の精度を高めることに集中している。パリで日本の歴史を塗り替えるメダルを取るだけでは満足できないからだ。「目標は金メダル」。クールな表情で宣言した。