デザインの専門誌『Ilmm』が創刊! 小さな雑誌だからこそ実現した“情報の質”の高さ
デザインの専門誌から一般誌までさまざまな媒体で執筆し、昨年、21_21 DESIGN SIGHTで開催された展覧会『The Original』展のディレクションを担当したジャーナリストの土田貴宏さん。土田さんがデザイン事務所のFLOOAT(フロート)とともにデザインの雑誌『Ilmm(アイエルエムエム)』を創刊した。なぜジャーナリストの土田さん自ら雑誌をつくることにしたのか? その理由を訊いた。 【写真】デザインの雑誌『Ilmm(アイエルエムエム)』の表紙
デジタルでも書籍でもない良さが、雑誌にはある
昔から雑誌が好きで、一方で90年代前半からインテリアに興味を持つようになったという土田さん。海外のデザイン雑誌を書店で購入することも多かったという。 「90年代前半からイームズのヴィンテージ家具が流行ったこともあり、やがて一般誌でデザイナーを特集することも増えていきました。自分にも文章が書ける気がして、2001年からライターとして活動を始めました」 ライターになる前はまったく別の業界で仕事をしていたため、執筆のノウハウやより深いデザインの知識は、仕事を通して学んでいったという。雑誌が売れないと言われて久しく、ネットメディアが主流となりつつあるいま、なぜ雑誌を創刊したのだろうか? 「実は紙の雑誌に対する愛着はあまりないんです。ただ、いまはインターネットに膨大な情報があり、いい記事もその中に埋もれがちでたどり着くのが難しい。また、ソーシャルメディアに発信が偏って、深く掘り下げた情報が注目されにくいように思います。一方で書籍は、時代に左右されない情報に向いている感覚がある。後々に読み返せるものでありながら、その時代に起きていることをしっかりレポートすることにニーズはあるはずで、そう考えると本とソーシャルメディアの中間に位置するものとして雑誌に存在意義があるように思いました」 Ilmmの発行は春と秋の年に2回。スピード感を求められるネットの記事ではないからこその情報の質が、紙の雑誌にはある。これはどの雑誌も同じだろう。年々発行の頻度が減っている雑誌業界では、一号ずつの「重み」は年々増していき、昔よりも特集のテーマを大切にしている傾向がある。しかしIlmmには毎回決まったテーマがあるわけではない。 「特集を決めてしまうと、そのテーマに興味のない読者は手に取らないかもしれません。デザインという領域を専門にする小さな雑誌なので、この雑誌を気に入った人であればどの号でも読んでみたいと思える内容にしたいんです」 そう語る土田さんは、今回発売された0号のように、今後も独立した記事が集まっている雑誌にしたいという。今回はコンスタンティン・グルチッチからイタリアの若手、NM3まで、さまざまなデザイナーにインタビューをしている。どのように取材先を決めたのだろうか? 「発行元であるFLOOATの吉田裕美佳さんと石野田輝旭さん、そして友人の山本考志さんが編集チームで、日常的なやり取りをベースに決めています。FLOOATとは付き合いが長いこともありますが、いいものをたくさん見ているし、共感もしています。また今後は、取材先であるデザイナーの世代や活動する地域にあまり偏りがないように選定したいと考えています。寄稿してくれるライターさんから提案してもらうこともありますね」 毎年ミラノデザインウィークにも行き、長年にわたりデザインシーンを見てきた土田さん。彼の視点を通して選ばれたデザイナーたちは、注目すべき人たちであることは違いない。 「特集のテーマがないぶん、どのように書くかを書き手の自主性に任せているのも、この雑誌のひとつの特徴だと思います。あえて記事の文章も長くしていて、できるだけ取材先であるデザイナーの全体像を伝えたいですね」 商業出版ではこぼれ落ちてしまう視点がつまった雑誌、Ilmm。今後の発売も定期的にチェックしていきたい。 ※5月19日まで中目黒のLIHCTで展覧会を開催中。詳しくはページ下部の情報欄で確認を。