買った古い腕時計に日本語で「1964年…」と刻印が What?調べてみると…アメリカ人収集家が日本の偉業を本に
始まりは、ネットで買った腕時計
米国在住のITネットワークエンジニア、クリス・ダールマンさん(35)が、1964(昭和39)年4月10日の長野県県山岳連盟(現県山岳協会)遠征隊によるヒマラヤのギャチュン・カン(7922メートル)初登頂の物語を本にまとめた。快挙から60年の節目に合わせて来日したダールマンさんは、遠征隊の一員で本紙記者だった菊地俊朗さん(89)=松本市=と8日に松本市の信毎メディアガーデンで懇談。当時の新聞記事を見ながら思い出話に耳を傾けた。 【写真】腕時計を見つけた米国人収集家のダールマンさん
ヒマラヤの山初登頂 隊員11人に贈られたものだった
ダールマンさんはセイコー製の腕時計を収集しており、2018年にオンラインのショッピングサイトで古いセイコーブランドの腕時計を購入した。裏蓋には日本語で「1964年ギャチュンカン遠征を記念して」と刻印されていた。
菊地さんによると、この腕時計は遠征出発前に隊員11人に贈られたもので、登山中も実際に使っていた。ダールマンさんが手に入れた腕時計が誰のものだったか、どのような経過で売りに出されたのかは分かっていない。
興味を持ち独自に調査 「この物語は本にまとめるに値する」
ダールマンさんは登山をしないものの、刻印の日本語を友人に訳してもらってギャチュン・カン遠征に興味を持ち独自に調査に乗り出した。文献を調べたほか、県山岳協会にメールで連絡を取り、菊地さんにも頂上アタックに向けたキャンプ地の場所などを教わった。
「この物語は本にまとめるに値する」。ダールマンさんは21年夏に本にまとめた。題名は「THIS IS GYACHUNG(日本語訳=こちらはギャチュン)」。縦26センチ、横21センチで84ページ。遠征の計画から出国、アタックに至る経過を簡潔にまとめ、腕時計の写真も掲載した。
ダールマンさんは初登頂から60年の節目に、菊地さんや調査に協力した県山岳協会の杉田浩康会長(70)=安曇野市=らに会うため、双子の弟のチャドさん(35)と4~13日の日程で初来日した。
隊員の記者 山に持ち込んだのは「鉛筆だけ」
8日は当時の記事や写真を見ながら懇談。菊地さんが初登頂する隊員らを標高5500メートルの第1キャンプから超望遠レンズで撮影した写真を紹介すると、ダールマンさんは「本当に小さいですね」。「現場にはタイプライターを持ち込んだんですか」との質問に、菊地さんは「ノー。鉛筆だけ」と応じた。