店舗数は1100店以上!? 衣装に、内装に、すべてが日本とは桁違いな“中国・上海のマーダーミステリー事情”を実地調査してきた
日本ではマーダーミステリーはまだまだニッチな遊びですが、中国の若者の間では知らない人がいないくらいメジャーな遊びです。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 映画鑑賞やスポーツと並んで、中国人が好きな娯楽の上位3つとしてマーダーミステリーが挙げられていて(調査会社iiMedia Consulting調べ)、日本でカラオケへ行くくらいの感覚でプレイされています。 中国のマーダーミステリー最盛期は2021年で、その頃から比べるとプレイ人口は減少していますが、それでも2022年8月時点で中国の主要20都市のマーダーミステリー専門店の店舗数は9,600店、上海の店舗数は1,106店です(調査会社Insight&Info Consulting調べ)。 人口比を考慮すると、店舗数は東京にある書店やファミレスと同じくらいの数です。中国でマーダーミステリーがいかに遊ばれているかが想像できるでしょう。 ちなみに東京でマーダーミステリーが遊べるお店の数は約30店です。 今回は、そんな上海のマーダーミステリー専門店「1219」と「霧里」の協力を得て、中国・上海のマーダーミステリー事情を実地調査してきました。 文/にっしー 編集/竹中プレジデント ■中国の流行は協力型マーダーミステリーやストーリープレイング 2店舗がどんな様子だったのかをご紹介する前に、中国のマーダーミステリーについてお伝えします。 中国では、マーダーミステリーは「硬核」「情感」「机制」「歓楽」の4つのジャンルに分類できます。 硬核:ハードコア、従来のミステリーで推理がメイン 情感:物語を楽しむ作品。日本ではストーリープレイングと呼ばれています 机制:ボードゲームのようにゲーム性が中心となる作品 歓楽:パーティーゲームのようなカジュアルな作品で、コメディ要素が含まれることが多いです 推理重視のマーダーミステリーは協力型が9割以上を占めています。協力型とは犯人探しのためにプレイヤー同士が対立するのではなく、全員が協力して犯人や事件の真相を解き明かそうとする作品です。 また推理面で叙述トリックが多用されたり、推理と感動的なストーリーが融合した『立方館謀殺の一部始終』や『ロラシリの巫女』といった作品が増えています。 物語を楽しむストーリープレイングは、2020年末ごろから公演されるようになり、コロナ明けの2022年末~2023年頭に急激に普及しました。 高校時代の恋愛をテーマにした『告別詩』や戦争時代の一家の物語を描いた『紅豆』、ロマンチックなラブストーリーを楽しむ『ロンドン中のバラを盗み尽くせ』、キャラクター同士の愛憎入り混じったケンカを楽しむ『南檣』といった作品が人気です。 マーダーミステリーもストーリープレイングも登場人物の1人をプレイヤーが担当するのは同じですが、ゲームの主目的が異なっています。 マーダーミステリーは犯人探しがプレイヤー共通の目的ですが、ストーリープレイングの目的は物語を体験することで、犯人探しは必ずしもゲームの要素にありません。 沈没しそうな豪華客船からみんなで脱出する、デスゲームを生き残る、学園生活で青春を満喫する―――各プレイヤーが登場人物の1人となって物語を体験できるのであれば、さまざまな設定がストーリープレイングの題材となります。 実際、昨年の中国での売上ランキング1位は『ロンドン中のバラを盗み尽くせ』でしたし、上海だけでストーリープレイング専門の店が200~300店くらいはあります。 また、マーダーミステリーは犯人探しが目的なので一度プレイしてしまうと同じ作品をプレイできませんが、ストーリープレイングは映画や演劇を何度も観るのと同じように繰り返し遊ぶことが可能で、リピーターも多いそうです。 繰り返しプレイすることで、「初回はAをプレイしたので次はBをプレイしたい」、「別の決断を選んだらどうなったんだろう」といった楽しみ方ができますし、単純に「ストーリーが良かったのでもう一度体験したい」ということもあるでしょう。 ■上海ナンバー1のストーリープレイング専門店の「1219」 まず「1219」の紹介です。「1219」はクチコミサイトで上海のストーリープレイング店舗ランキング1位に選ばれている人気大型店です。 お店は上海の中心街である南京東路から車で30分ほど北上した割と辺ぴな場所にあります。 近くには上海大学などいくつかの大学があり、徒歩圏内にショッピングセンターもありますが、お店の前は高速道路の高架下で人通りがある場所ではありません。実際、お店の前の道を歩いている人はほぼ見かけませんでした。 古いビルで通りに看板も出ていないので、知らない人は絶対に気づけないでしょう。 ここに本当に上海で一番のお店があるのかと疑問に思いつつエレベーターを上がってまず驚くのは、ともかく広いということです。 ビルの1フロアが丸ごとお店になっていて、受付エリアの奥の廊下の左右にはゲームを遊べる部屋が十数部屋並んでいます。「1219」は姉妹店があり、2店舗合わせて30部屋もあります。 東京のマーダーミステリー専門店は1店舗1部屋が一般的で、お店の広さはまったく違っています。 来店したのは日曜の午後ですが、ほぼすべての部屋が埋まっていてゲームが進行していました。土日は平均20公演が1日でプレイされるそうです。 もう1つ驚くのは演出への力の入れ具合です。 公演にはゲームマスターというゲームの進行役が店舗スタッフとして必ずいます。ゲームマスターはゲームの始めから終わりまで公演を担当し、ゲームを進行させるほか、メインで登場するNPCを担当します。 ゲームマスターは日本の専門店にもいますが、「1219」ではそれ以外のわき役NPCも3~8人がゲームに登場します。日本ではゲームマスター1人のみで進行することがほとんどで、いてもせいぜいあと1人なので、この点もまったく違っています。 メインNPC以外のサブNPCは、特定のキャラクターと関係性が深いキャラや特定のシーンで重要になるキャラクターたちです。たとえばあるキャラクターにとっての家族や想い人で、NPCが多い作品ではプレイヤーキャラクター1人につきNPCが1人登場します。 これらのキャラクターが設定書に文字で描かれているだけでなく、生身の人として目の前に現れることで、プレイヤーの作品への没入感がぐっと高まります。 もちろんどのNPCもそのキャラクターにふさわしい衣装をまとっています。それだけでなくプレイヤーも店舗の貸し衣装を着てプレイします。そのため、「1219」では500着以上の衣装や小道具が用意されています。 さすがに何人ものNPCが公演中ずっと付きっきりというわけではなく、サブNPCの登場シーンは1回あたり数分程度です。 スタッフは複数卓を掛け持ちしていて、A卓で誰かのお母さん役として登場した後、衣装を着替えてB卓で恋人役を演じるという風に、複数のゲームを駆け回っています。 このように演出に力を入れているだけあって、お店によって演出など独自にアレンジされていて、それがウリになっています。 プレイヤーはクチコミサイトのレビューを参考に、Aという作品をプレイするならこのお店、Bならあのお店といった選び方をします。 そのためかカリスマゲームマスターが存在しています。「1219」にもイケメンで演出も演技も上手いというスタッフがいて、わざわざ北京からそのスタッフを指名してプレイするためにやってくる人がいるほどです。 「1219」でゲームマスターやNPC役として活躍しているAlanaさんにストーリープレイングの魅力をお聞きしました。Alanaさんご自身もマーダーミステリーの大ファンで、役者としても活動されています。 Alanaさん一問一答 Q.スタッフとしてストーリープレイングのゲームマスターやNPCを演じる魅力はどこにありますか? A.プレイヤーの目の前で演技して、それが1回きりという点です。プレイヤーの会話やリアクションは毎回違っていて、その反応を見て演技をリアルタイムで変えていくところが楽しいです。 Q.プレイヤーとしてのマーダーミステリーやストーリープレイングの魅力は何でしょうか? A.キャラクターになりきれるところです。感動的な物語では号泣しちゃいますし、何度もプレイできます。 ■内装に力を入れている「霧里」 「霧里」は南京東路から車で10分ほど北上した場所で、「1219」と比べればかなり街中ではありますが、中心街からは離れた雑居ビルに位置しています。 「霧里」の部屋数は8部屋です。これは上海では中規模な店舗で、小規模な店でも4部屋はあるそうです。 「霧里」はマーダーミステリーとストーリープレイングの公演が半々くらいで、各部屋の内装に力が入れられています。 武侠風、中華民国風、ヨーロッパ風、和風、警察の取調室と、部屋ごとのテーマに合わせた内装で、プレイする作品の世界観に合わせて部屋を選べます。 内装は机や椅子、照明、装飾に至るまで統一されていて、庭園の離れ風に床に砂利が敷き詰められた部屋まであり、ひと言でいえばお金がかかっていることがひと目でわかります。 「霧里」もNPCやプレイヤーの衣装や刀などの小物が豊富に揃っています。刀を携えて登場するNPCは時にはちょっとした剣舞を披露することもあります。 ■日本と上海の店舗事情の違いとは 日本と上海のマーダーミステリー専門店の大きな違いはお店の広さです。 部屋数が多いからこそたくさんのNPC役のスタッフをローテーションで登場させることができ、それによって満足度が上がってお客が定着するという好循環が生まれています。 もちろんマーダーミステリーのプレイ人口が多くてたくさんのお客が訪問するから成り立っているのですが、それ以外にも交通事情の違いによる立地の有利さがあります。 上海市は東京都の3倍の面積で、道路も建物も何もかもが日本より広く、片側3車線や4車線の道路が当たり前です。それだけに家賃も安いのですが、それでも中心部の家賃はそれなりの値段です。そのためマーダーミステリー専門店は上海市内の郊外にあります。 郊外だと交通の便が不便になりそうですが、上海はタクシー代が非常に安価です。Didiという配車アプリを利用するとタクシー代は日本の5分の1~6分の1で、10キロ乗っても700円くらいです。対比として、新宿から10キロ圏内だと23区のほとんどの場所へ行けますが、タクシー代は4000円くらいです。 また上海市内には地下鉄網が張り巡らされていて、こちらは端から端まで乗っても200円です。 東京は電車移動が中心でお店も山手線沿線といった交通の便が良いところが候補になりますし、終電というタイムリミットがあります。 上海では車でしか行けないような辺ぴな立地でもお客が集まりますし、タクシー代が安価なため終電を気にせず公演できます。 中国ではマーダーミステリーが人気なんだというのが本当に実感できる上海見学でした。
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