『がん征服』の先に何があるのか…人類はすでに「死という病気」を克服するための「最終局面」を迎えている【下山進×堀江貴文】
『アルツハイマー征服』で人類とアルツハイマー病の117年におよぶ戦いを描いたノンフィクション作家の下山進氏が、新刊『がん征服』を上梓した。今度のテーマは「膠芽腫(こうがしゅ)」。あらゆるがんの中で最も予後が悪いと言われる悪性脳腫瘍の治療に挑む医者・研究者たちの苦闘を通して、がんと人間の戦いのドラマを描き出します。対談相手は、予防医療普及協会の理事を務め、医療ベンチャーにもかかわる堀江貴文氏。前編記事「平均余命は15か月…あらゆるがんの中で最も予後が悪い「膠芽腫」に挑む新しい治療法で、はたしてがんは征服されるのか」に続き、後半ではG47をだけがなぜ承認されているのか、その不可解な理由に迫ります。そして話は、がんの征服、その先に「死という病の征服」があるのかどうかという話へ―。 【一覧表】「効かないのに高い」がん治療の実名
日本好きのハーバード大教授
下山3つの治療法の中で、膠芽腫で承認を受けてるのは、遺伝子改変ウイルスのG47(デルタ)だけなんです。「世界最高のがん治療」とかメディアで大きく取り上げられたこともあるので、知っている方もいるかもしれません。 これもアプローチとしてはすごく面白いんですよね。ロバート・マルトゥーザというハーバード大の教授が発見したんです。この人は、物理が好きで、日本が好きで、あと温泉も好きなんですよね。ボストンもすごい寒い町なので、冬は風呂にブランデーグラスを浮かべて読書してる。 それである時、物理学の本を読んでたら、物理というのは必ず作用・反作用とか、陽子・反陽子というように、必ず反対のものがあると気づく。これをがんの治療にあてはめると、放射線や抗がん剤っていうのは、元々人間を殺すものだと。放射線はもちろん、抗がん剤の元になったのはマスタードガスですから。ではウイルスはどうかと。ウイルスも人間を殺すけど、治療の方では使ってないよね、っていうことから生まれた。 当時、80年代後半だったんで、遺伝子改変の技術が成立したところなんです。で、この人は、そのワクシニアウイルスかヘルペスウイルスを使えば、がん細胞だけに繁殖するウイルスが作れるんじゃないかと、実際に遺伝子を改変して作るんですよ。この マルトゥーザの研究室に藤堂先生は留学をして、ここでG47の開発に関わったんです。これはヘルペスウイルスを3か所改変しているものです。 薬の承認って普通どういうシステムになっているかというと、フェーズ1(治験第1相)、フェーズ2(第2相)、フェーズ3(第3相)を経て承認をされるんです。で、フェーズ1では安全性を確認して、フェーズ2ではある程度の有効性を確認して、最後のフェーズ3で、統計学的に有意な結果で、他の標準治療に比べて有効性を持ってるということを証明しなければ、本来は承認されないんですよね。