保護者会なし、退出自由…“ツール活用”で負担減 「家庭に圧かけない」チーム運営
「大人のサインで動かされるチームより、自分たちで考えるチームの方が強い」
試合で監督、コーチはサインを出さないが、もちろん子どもたちを“放置”しているわけではない。森糸監督は「自分たちの目指す野球があって、それに則って子どもたちが主体的に動いています。盗塁、牽制、守備位置のポジショニングなどは、普段の座学でカバーしています」と説明する。 「最終的には大人のサインで動かされるチームより、自分たちで考えてゲームを進めるチームの方が強いと考えています」と強調。実際に試合で「送りバントの場面でも、相手の守備陣がシフトを敷いてチャージしてくればバスターをしてみたり、子どもたちは個々の判断で動けるようになってきました」とうなずく。 子どもたちを極力自由にする代わりに、指導者には高いスキルを求めている。森糸監督を含む常任コーチ7人は、日本スポーツ協会(JSPO)の「軟式野球公認コーチ3」などの指導資格を取得。「全員が監督者として活躍できるほどの指導スキルを持っている、自慢のコーチたちです」と話す。これに加えて、子どもたちの父親の中から就任を買って出た“お父さんコーチ”が5人いる。ただし「お子さんと同じスケジュールで参加してもらうことを約束事にしていて、お子さんが体調や都合で休む時には休んでもらいます」。 指導陣は余程危険でない限り、子どもたちに対して声を荒げたりしない。「選手個人を尊重しています。指導者の話を聞く時に、帽子を取らないといけないとか、人の目を見ないといけないとかは、各家庭のしつけの部分。僕らが強制して制限を増やしてしまうと、子どもたちにとって“つまらない空間”になってしまいますから」と森糸監督。 そのためだろうか。城東ベースボールクラブの練習は休憩時間中でも、チームメートとじゃれ合い、駆け回る子どもが目立つ。「とはいえ、あれだけ自由に、わちゃわちゃしていても、私は合図のためにスマホにチャイムの音を録音していて、これを流すと、みんながちゃんと集まってきます。指導者が話し始めれば静かになりますよ」と目を細める。 41歳の森糸監督は北海道出身で、東京都内でインターネット広告の代理店を経営するかたわら、ボランティアでコーチたちとともに子どもの指導にあたっている。 城東ベースボールクラブを立ち上げる前は10年以上、別の少年野球チームの指導に携わっていた。「正直言って、歴史のあるチームには実績に裏打ちされた決まり事があって、ガラリと変えるのは難しい。ゼロから立ち上げたからこそ、今は自分の思うようなチャレンジができています」と手応えを感じている。 「同じ『楽』という漢字を使いますが、『たのしい』と『らく』は違うと思います。楽しく取り組めて、かつ技術上達につながる練習メニューを、これらもを提供していくつもりです」と笑顔を浮かべる森糸監督。このチームからどんな野球選手が育っていくのか、本当に楽しみだ。
宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki