「時には暴力団でも下に使う」警察が新たな捜査対象に指定…“トクリュウ”のおそろしすぎる実態
全国の暴力団構成員が反社会的勢力と位置付けられて、経済活動からの排除が進み減少傾向にあるなか、警察当局は増加傾向にある「半グレ」と呼ばれる不良グループの活動を重要捜査対象として取り締まりを強化している。 【画像】すごい…! 半グレグループ『チャイニーズドラゴン』のメンバー約100人が起こした大乱闘「現場写真」 そんな中、’23年には大きな変化があった。東京都狛江市で高齢女性が殺害された事件など、「ルフィ」を名乗る指示役による連続強盗事件が全国各地で発生。その凶悪化に大きな不安が広がった。警察庁はこうした犯行グループまで網羅的に取り締まるべく、昨年7月に新たに「匿名・流動型犯罪グループ」(通称トクリュウ)と位置づけた。‘24年は半グレの進化系ともいえる、「トクリュウ」の捜査が進展するものとみられる。 一般的な暴力団組織は組長をトップにピラミッド型の組織を構成し、新規に加入した組員は強い上下関係のもとで絶対服従を求められる。暴力団に加入することについて、関西地方に拠点を構える指定暴力団の幹部は、「ヤクザとは不条理を飲み込むことでもある」と強調し、次のように明かした。 「親分の盃を受けて正式に子分になるということは、何があろうとも親分の言うことに従うということ。よく言われることだが、親分が『白いものを黒だ』と言ったらその通りに従うということ。対立抗争となったら、個人的な恨み、動機などまったくなくとも、自分の組のためにケンカに行くことを躊躇してはならない。長期の懲役も覚悟だ」 さらに、半グレについて付け加える。 「最近の若者は、ヤクザになろうというのは少ない。ヤクザの社会の理不尽とも言える習慣や伝統のようなものが嫌なのだと思う。気の合う仲間で半グレのようなグループでの活動の方が気楽だということだろう」 半グレの多くは20~40代の若手で、全国で60~80のグループがあるとされ、約4000人が警察当局によって確認されている。グループ数に幅があるのは、「組織があるようでないようなもの」だからだ。警察当局の幹部がため息交じりに明かす。 「あるグループに所属していたとされていた人物が、別のグループで活動していることも少なくない。ヤクザは自分が所属している組を出て別の組に加入したり、また元の組に戻ったりということはない。出たり入ったりということを『恥』と考えているが、半グレはまったく違う。事案ごとにSNSなどで連絡を取り合いメンバーは自由に入れ替わる。だからこそ、やっかいな存在なのは間違いない」 多くはオレオレ詐欺などの特殊詐欺のほか、恐喝、違法風俗、違法薬物、闇カジノなどを資金源にしているとみられる。前出とは別の指定暴力団幹部が言う。 「半グレの若いヤツがあいさつに来て『資金を出し欲しい』ということだったので、それなりの額を出した。すると、定期的にせっせとカネを持ってくる。どうせ、オレオレ詐欺とかのヤバい仕事だろうから、内容は聞かなかった。後に警察が出てきて仕事の中身を知っていたら、こちらもヤバくなるかもしれないから」 一般的に両者の関係性においては、暴力団が上に位置すると思われる方も多いだろう。しかし、このように暴力団幹部に出資を依頼する若手がいる一方、特殊詐欺などで暴力団組員が半グレの配下として使われているケースもあり、関係性は多様なようだ。 警察当局が半グレの粗暴さを認識したのは‘10年11月に発生した「海老蔵殴打事件」だ。人気歌舞伎役者、市川海老蔵が東京・西麻布のバーで、泥酔状態で周囲の客に絡んだところ、制止した人物から暴行を受けて重傷を負った。後に逮捕されたのは暴走族関東連合OBの男だった。 近年も半グレの粗暴さがむき出しになった事件が発生している。東京・池袋の複合施設「サンシャイン60」の高層階にあるフレンチレストランで半グレグループ『チャイニーズドラゴン』のメンバー約100人が集まって元リーダーの出所祝いを開催していたところ、別のグループが情報を聞きつけて押しかけて乱闘騒ぎとなった。宴会は開始直後からグラスや皿を投げつけ合う事態となり、通報を受けて警察官が駆け付けるとテーブルはひっくり返り、けがをした数人を残してもぬけの殻となっていた。 こうした半グレグループのほか、「ルフィ」を名乗る指示役らによって全国各地で連続強盗事件を引き起こしてきたグループなども含めて、警察庁は「匿名・流動型犯罪グループ」と位置付けて広い概念で捜査対象とすることを表明している。強盗事件を実行しているグループについて、警察当局の幹部は、「かつては特殊詐欺を行っていたとみられているが、手口を変えたようだ。詐欺は舞台設定やだましのトークなどを考えなければならないが、それに引き換え強盗は手っ取り早くカネを手に入れられる」との見方を示す。 警察庁は都道府県警の垣根を取り払って捜査を強化する方針を示しており、‘24年は警察とトクリュウの新たな攻防が始まることになる。 取材・文:尾島正洋 ノンフィクション作家。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当しフリーに。近著に『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)。
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