元宝塚トップ・珠城りょう、演劇・ドラマなど活躍広がるも「舞台には毎年立ちたい」
元宝塚歌劇団男役トップスターの珠城りょうが、朗読ミュージカル『「初恋」~朝まだきの、春の雷雨の思い出ほどに~』に出演する。本作は昨年9月に開催された朗読ミュージカル「Unrequited Love~マクベスを殺した男~」に続く朗読劇とミュージカルが融合した新しい形の朗読劇の第二弾となる。宝塚時代から歌・ダンス・そして演技力に定評がある珠城は「マヌエラ」や「天翔ける風に」といった人気の舞台の主演を、今年は大ヒットドラマ「VIVANT」にも出演。表現の幅を広げている珠城に、改めて朗読劇の難しさや役作り、最近の活躍の振り返りや今後の俳優としての展望などを語ってもらった。 【写真】美しい笑顔をみせる元宝塚トップ・珠城りょう ■セリフ入れと芝居のバランスが難しい“朗読劇”に挑戦 ――昨年9月に行われた朗読ミュージカル「Unrequited Love~マクベスを殺した男~」では朗読劇(朗読ミュージカル)に初めて挑戦されましたが、振り返ってみての思い出をお聞かせください。 「Unrequited Love~マクベスを殺した男~」は歌うし踊るし、台本を完全に外してお芝居をするシーンもあったんですね。朗読劇といえば台本を手に持ったままリーディングをするものだと思っていたので、それとはかけ離れた演出だったことが新鮮でした。脚本・演出の斎藤栄作さんも新しい試みだとおっしゃっていて、みんなでああでもないこうでもないと言いながら、楽しく稽古をし、本番を迎えた思い出があります。 ――珠城さんは台本を覚えてから舞台に立つことが多かったかと思いますが、台本が手元にあるというのはどのような気持ちだったのでしょうか? 手元に台本がある安心感からなのか、全然セリフが頭に入ってこないんです(笑)。完全に暗記をしなければならないときのほうが、セリフは覚えられるのかなと感じました。それから、どのくらい手元の台本を見ていいのか、どのくらい台本から視線を外したほうがいいのか、そのバランスを考えるのが難しかったです。 ■朗読劇「初恋」は濃厚なラブストーリー ――そんな経験を経て、今年も朗読ミュージカルに出演されることになりました。オファーを受けたとき、率直なところどう感じましたか? 「Unrequited Love」の公演が終わったあと、ご覧いただいたお客様から「このシリーズがもっと続いてほしい」というお声をいただいたんです。演じていた私たちも、またこういったイベントができたらいいねと内々で話していたので、それが実現できて非常にうれしいです。また、今回は羽多野渉さんという新たなキャストが加わって前回とは違う雰囲気になると思うので、それも楽しみです。 ――今回ご出演する『「初恋」~朝まだきの、春の雷雨の思い出ほどに~』の台本を読んだときの感想はいかがでしたか? 前作に続いて演出・脚本を斎藤栄作さんが書いてくださっているんですが、斎藤節というか、斎藤劇場だなという感じでした。ツルゲーネフの「初恋」という文学作品を題材にしていて、ちょっと難しいかもとか堅い物語なんじゃないかと考えられる方もいるかもしれませんが、いろいろなエッセンスが込められていて、クスッと笑えるようなシーンもあるんです。斎藤さんは真面目なお芝居はもちろんですが、それ以外にもいろいろな要素を交えて物語に落とし込んでくださるので、今回もとても面白いんです。私自身、「初恋」という作品にしっかりと触れたことがなかったので、内容に関しては衝撃的なところもありました。 ――「初恋」という言葉だけ聞くと甘酸っぱかったりかわいらしかったりするイメージがありますよね。 そうなんです。本作はそのイメージとは違ってなかなかに重い部分もあり、昨年の朗読ミュージカルとは違う色恋がお話のベースになっているんです。そういう作品に挑戦できることは、とても楽しみです。 ■「演じてこなかった役」を「とてもいいタイミングでいただけた」 ――ベースとなる物語があると、まだ触れたことがない方は、事前に読んでおいたほうがいいのかな、とも思いそうです。 難しいところですよね。ちなみに、私はあまり予習をしない派です。自分が演じる側にまわったときは原作を読みますが、見る側になると、その劇の台本に書かれたもので受け取りたいという気持ちもあって、観劇に行くときは原作にはあまり触れないようにしているんです。観劇後に気になって原作をあとからたどることはあり、そこでの発見もありますね。ただ、これは本当に好みの問題で、知っていてこの劇ではこうするんだと感じながら見るのが楽しい方もいれば、見終わったあとに原作を読んで納得する方もいると思うんです。私としては無限に楽しみ方があると思っているので、ご覧いただく方の好みに合わせていただくのが一番いいと思います。 ――本作での珠城さんのお芝居のポイントは? 前回とはまったく違ったキャラクターですし、自分としてもこれまでこういった役どころを演じたことがなかったので、とてもやりがいを感じており、どうやって演じていこうか、自分のお芝居の引き出しにこういうキャラクターはいるかなと思っているところです。私自身、新しい環境でお仕事をするようになって2年になりますが、幅広く演じられるようになりたいと思っていたので、とてもいいタイミングでこのお役をいただけたなと感じています。ちょっと若作りしなきゃいけないかな、という部分もありつつ(笑)、お客さんの目の錯覚にも頼りながら、楽しく演じていきたいです。 ■共演の高橋愛については…「すべてに嘘がない、本当に素敵な俳優さんです」 ――高橋愛さん、宮菜穂子さんとは、前作に続いての共演になります。おふたりのお芝居の印象は? 高橋愛ちゃんは、シリアスなシーンも丁寧に表現されるのですが、コメディータッチの部分を表現するのにためらいがないんですね。そこが本当にすごいんです。そしてすべてに嘘がない。愛ちゃん自身がまっすぐで飾らない方なので、お芝居でもそのときの感情がとてもまっすぐ伝わってくるんです。本当に素敵な俳優さんですし、何よりとてもかわいくて癒やされます。宮さんはすごく芸達者な方です。 前回もひとりでいろいろな役を担当されていましたし、間の取り方や笑いのポイントをしっかりと押さえられて、何事も絶妙なんですよね。私自身勉強になることも多く、きっと今回も面白おかしくいろいろなお芝居をやっていただけると思うので、それが楽しみです。今回は愛ちゃんのボリュームが多くて大変なんじゃないかなと思いますが、愛ちゃんがそれをどう落とし込むのか、宮さんがいい塩梅でいろんなエッセンスを添えてくれるであろうことも楽しみにしています。 ――羽多野渉さんとは、今回が初めての共演になりますね。 お目にかかるまでは、落ち着いたクールな方なのかなと思っていました。でも、ビジュアル撮影でお会いしたら、すごく物腰の柔らかなフランクな方でした。でも、振る舞いはすごく落ち着いていらして、安心感もありましたね。羽多野さんもいろいろな役を演じてくださいますし、その役をどんな声で演じ分けてくださるのか、早く聞きたくてワクワクしています。きっと羽多野さんのファンのみなさまにも楽しんでいただけると思います。 ――脚本・演出の斎藤栄作さんは、珠城さんから見てどんな方ですか? お茶目な方です。そのお茶目なエッセンスが台本のいろいろなところに“遊び心”としてちりばめられている印象です。斎藤さんがどういうものが好きなのか、笑いのエッセンスやネタでも感じていただけると思います。お芝居に関しては、最初からすべてを固めるというよりは、私たちが表現するものを面白がってくださって、「こう演じたらどうなるか」を楽しみながら決めていってくださる。斎藤さんも物腰が柔らかな方で稽古もとても楽しいです。 ■「舞台には1年に1本でもいいから立ちたい」 ――2023年は舞台「マヌエラ」や「天翔ける風に」、テレビドラマでは「VIVANT」に出演されるなど多岐に渡って活動されていますが、媒体が違うことで意識することはありますか? 映像の場合は目の前にいる人との距離感や空気感を意識しますが、舞台のときは目の前の人はもちろん、空間が広くなるので、それを埋めることは無意識のうちにしているかもしれません。また「Unrequited Love」のときは「朗読」と名の付いたものだったので、言葉をより大切にしたいと思って演じていました。でも、この2年でストレートプレイ、朗読、映像、ミュージカルと演じて、”言葉の重要さ”はどの現場でも変わらないんだなと感じるようになりました。どんな作品でも何を言っているのかがわからないと、お客さんも集中して見られなくなってしまうと思うんです。 それから、作品によって微妙に違いはありますが、一貫して誰かの人生を演じるということがとても好きだなと感じました。映像のほうはまだ慣れていない部分があるので勉強することも多いですが、実は考えすぎていたところもあって。声のボリュームって、音声の方が調整してくれるんだと、今更ながらに思ったり…。もちろん、ステージでもマイクはありますが、そのアイテムや技術とどう付き合っていくかのバランスが大事なんだなという発見がありました。 ――さまざまな経験を経て、今後どのような役、媒体に挑戦してみたいですか? 舞台には1年に1本でもいいから立てたらと思っています。それから、今は映像の仕事にも興味があるので、ドラマや映画のオファーをいただけるようになりたいですね。また、これは今すぐではなくいつかですが、年齢相応の役だけでなく、若い時代から年老いていくまで、その人の長い人生を演じられたらとも思っています。朗読ミュージカルはセリフを暗記するところもありますが、台本を手放さず、最初の立ち位置から動かないリーディングもやってみたい。どの程度台本を覚えるのか、どの程度視線を本から外すのかも経験してみたいです。 ――朗読劇はひとりで何役も演じることが多いですが、ひとつの舞台でいろいろな役に挑戦するというのは? それもいいですね。先日共演した方が、ひとりで複数の役を演じたとおっしゃっていて。その方は、ご自身のこだわりで役ごとに衣装まで全部変えたそうなんです。性別を超えた複数の役を演じるのは大変だったけれど楽しかったとおっしゃっていたのを聞いて、それも面白そうだなと思いました。 ――ご自身とかけ離れたキャラクターを演じるというのはいかがでしょう? 「天翔ける風に」では人を殺してしまう役だったんですよね。最後は自首をして罪を償う役ではありましたが、同じく罪を犯して投獄され処刑される役も演じたことがあるので…結構極端ですね(笑)。そういえば、すごく意地悪な役は演じたことがない気がします。陰湿で嫌みな役には興味がありますね(笑)。また、スポーツをやっていたり身長の面もあってクールな女性の役をいただくことが多いので、雰囲気の柔らかい女性も演じてみたいです。 ――最後に、本番に向けての意気込みをお聞かせください。 昨年に引き続き、朗読ミュージカル(「初恋」~朝まだきの、春の雷雨の思い出ほどに~)に挑戦できることを本当にうれしく思っています。前回ご一緒した高橋愛さん、宮菜穂子さんに、今回は新たに羽多野渉さんという声優界でもキャリアのある方とご一緒できて、どんな雰囲気になるのか自分でも非常にドキドキしています。前回とはまた違う、だいぶ濃厚なラブストーリーになっているので、きっとお客様にも楽しんでいただきながら切ない気持ちも同時に感じていただけるのではないかと思っています。ところざわサクラタウンで非日常を味わっていただけたら嬉しいです!ぜひ足をお運びください。お待ちしています。