会社員生活を捨てプロバレリーナの道へ…「週5日はカフェでバイト」でも希望を捨てない21歳女性の言葉
■「ポワント」で1カ月1万円の出費 「これはポワントと言って、バレリーナが履くシューズです。つま先の部分が固くなっていて、つま先立ちで踊るバレリーナにとっての必需品です。これも意外と高いんですよ。1足1万円以上します。でも高い割に、すぐ潰れちゃう消耗品なんです。だいたい1カ月も履けばボロボロです」 1カ月1万円。バイト生活の彼女にとっては痛すぎる出費だろう。生活費はもちろんだが、バレエのための道具にもかなりお金がかかる。「本当にやっていけるのだろうか」親が子どもを心配するような気持ちになりながら、僕はカメラのモニター越しに彼女を見つめていた。 恋さんも他のバレリーナ同様、幼少期の5歳からバレエを始めたという。 「子どもの頃はバレエにかかるお金のことなんか、正直何も考えてなかったです。ポワントも潰れる度にしょっちゅう買ってもらっていました。だから自分で買わないといけなくなった今になって、あらためて親への感謝が込み上げてきます」 アメリカのプロバレエ団時代には無料でポワントが支給されていたそうで、自分の稼いだお金でポワントを買うのは、これが初めてだという。 「今の生活だと、ポワントを買う余力も正直ないです。ニスを塗って乾かして、つま先を固めて、という作業を繰り返してなんとか長持ちさせられるように工夫してます」 ■次々と経済的な壁が立ちはだかる バレエを上手くなりたいという思いに反比例するように、次々と出てくる経済的な壁。 「何か打開する方法はないのか」と自然に頭が動き出す。 つい最近まで、バレエのことなんて1ミリも考えたことがなかった僕が、取材を始めて間もないこの時には既に、その厳しすぎる現実から目を逸らせずにいた。 何もない6畳のワンルームの真ん中で、ボロボロになったポワントを大切そうに取り出す恋さんの姿をカメラに収めた。同時に、今ある自分の環境に感謝した。「動画を撮影する」という、自分が好きだなと思える仕事である程度の生活ができているこの環境に。 荷解きがある程度終わり、ソファーや椅子もないので部屋の床に直接座り込みながら恋さんは淡々と話す。 「バレエを職業と言えない人の気持ちもわかります」 日本におけるプロバレエ界の経済的な大変さを、バレリーナ本人たちが誰よりも自覚している。だから彼女たちがそのことを話すときは「当たり前」のように話すのだ。そう、ここではそれが当たり前なのだ。バイトをしながらバレエをする。バレエだけでは食べていけない。それが日本では根付いてしまっている。だからこそ変わらない。いや変える必要すらないと思っているのでは。そんな風に僕には見えてしまった。