大統領に返り咲くトランプ前米大統領と、大相撲の元大関朝乃山の合縁奇縁
【ベテラン記者コラム】自賛するつもりは毛頭ないが、舌の感覚を侮ってはいけない。 一年納めの大相撲九州場所で博多の街に滞在していると、1年ぶりに足を運ぶ店も多い。主人らの笑顔をみて、縁のつながりを感じながら旬の味に舌が踊る。ところが、ある店の味が微妙に変化していることに気がついた。口には出さなかったが、のちのち人づてに聞くと、主人にとってかわって主に子息が料理を手掛けるようになったそうだ。 【写真】大銀杏姿も凜々しかった朝乃山。令和元年夏場所で初優勝した際は当時の安倍晋三首相からトロフィーを受け取った 常連でもある友人はそれほどの違和感はもっていなかったが、時間に隔たりがある地方場所では、こうした味の変化に気づかされることがある。 元大関の朝乃山(30)が今場所も休場した。7月の名古屋場所中に左膝じん帯を断裂。重傷を負って途中休場し、同月末に手術を施した。5月の夏場所も休場しており、4場所連続休場となり、今場所は東幕下筆頭に転落。所属する高砂部屋の力士らと九州場所に帯同し、福岡市内の稽古場で基礎運動を中心に下半身の強化に取り組んでいる。 朝乃山は来年3月の春場所(9日初日、エディオンアリーナ大阪)での復帰を念頭に置き「1月場所も考えないわけではないが、(再起して)失敗は許されない。医師とも相談しながら、しっかり治し切ることが大切と思っている。(復帰は)来年の3月が順当でしょう」。 来年1月の初場所まで全休すれば、春場所では三段目への転落が確実。大関時代、自らの不祥事で6場所出場停止処分を受けた際も、令和4年名古屋場所で三段目から復帰。5場所をかけて幕内へ返り咲いた。 朝乃山にとって、ときの経過はもどかしいに違いない。だが、局面の大きな変化はマイナスばかりではない。博多の店で感じた舌の感覚のように、習慣の表裏には「落とし穴」があるからだ。 脳科学では一定期間の習慣化に成功すると、その後の成長速度が低下するといわれている。例えば、楽器の演奏。譜面をみなくてもブラインドでピアノが弾ける習慣がつく。この間は精度の上昇を実感できるが、ある時点をピークに技量の向上が横ばいの線を描く。試行錯誤の期間を過ぎると一部の脳神経、ホルモンの分泌が変化して無意識が支配するようになる。それが改善や変革、挑戦を遠ざけ、成長を妨げてしまうという。 戦後、幕内経験者が三段目以下に2度降下して、再び入幕した例はない。負傷によって習慣化の激変を余儀なくされた朝乃山は、また違った〝土俵の味〟を感じるに違いない。