【プロの観戦眼30】フォアで作ってバックで決める西岡良仁。世界でも珍しいパターンで勝負する~佐藤博康<SMASH>
このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のここがスゴイ!」という着眼点を教えてもらう。試合観戦をより楽しむためのヒントにしてほしい。 【連続写真】逆クロスから来たボールをクロスに切り返した西岡良仁のバックハンド「30コマの超連続写真」 第30回は攻撃的なテニスで44歳まで現役で活躍した佐藤博康氏で、“推し”は西岡良仁選手。佐藤氏は開口一番「西岡選手のスゴサをもっと知ってほしいんです」と訴えてきた。 「本当に細かい部分で相手を研究し、プランを立てている。あの身長で世界で勝ち抜くには、戦術、技術、メンタル、フィジカル、全てがトータル的に高くないと無理です。彼がやっていることのスゴサを一般の人にちゃんと知ってほしい」 そこまで一気に話した佐藤氏。では、そのスゴサは具体的にプレーのどこを見れば実感できるのだろう? それは数多くあるとした上で、一例として佐藤氏が挙げたのが、西岡選手特有の組み立て方だ。「彼は攻撃の軸がバックハンドなんです」とのこと。 「フォアはそれほど攻撃的でなく、ループや深く押し込むボール、アングルなどを使って相手を揺さぶり、最後はバックでポイントを奪います。つまり“フォアで作ってバックで決める”というパターンが多いんです。こういう選手は世界でも珍しいですね」 それを可能にしているのは、緻密な計算に加え、高いバックの技術があるからだという。 「走りながらものすごいドフラットをクロスに叩き込んだり、ネットすれすれのスピードボールを何球も打ち続けたり、そのコントロールは非常に繊細で正確です。しかも左利きだから、相手はさらにやりづらいでしょう」 フォアで作ってバックで決める――そういう選手は他にいないか尋ねると、しばらく考えた末に「ヒシャム・アラジがそうですかね」と、20年近く前の選手の名を挙げた。 「彼は片手だけどバックの方が攻撃的で、フォアはスピン。似たタイプです」 2001年に自己最高22位を記録したアラジ。そんな昔の選手を引き合いに出すほど、西岡選手のスタイルは希少だということだ。これは今しっかり見ておかないと、今後何十年も後悔するかも? ◆Yoshihito Nishioka/西岡良仁(日本・ミキハウス) 1995年9月27日生まれ。170cm、64kg、左利き、両手BH。IMGアカデミーで腕を磨き、プロ転向後58位までランクを上げるが、ヒザの故障で戦線離脱。復帰後、2018年深圳オープンでツアー初優勝、22年ソウルで2勝目を挙げる。23年は自己最高の24位をマーク。 取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部) ※『スマッシュ』2023年12月号を再編集