「ブルーグラス」の伝道師 ── ミュージシャン 稲葉和裕さん
本場アメリカで活躍する「Kaz」
稲葉さんは15歳で、父親と兄の影響を受けて、バンジョーと出合う。以来、ブルーグラスと向き合い続け、転機になったのはアメリカでの長期滞在。80年代前半、3カ月間ずつ3年間、ヴァージニア州の一般家庭にホームステイ。「南部なまりの英語をはじめ、現地の人たちの生き方そのものを学んだ」体験が、音楽活動の軸となった。 86年、アルバム「ショアー・トウ・ショアー」でソロデビュー。その後、ナッシュビルでのレコーディングや、実力派ブルーグラス・バンドのツアー参加など、本場アメリカでの実績を積み上げていく。ミュージシャンの間では、「Kaz」のニックネームで親しまれているという。 今年6月、ヴァージニア州で開催された「ウエイン・ヘンダーソン・ミュージック・フェスティバル」に、日本人初のゲストミュージシャンとして出演し、好評を得た。若き日のホームステイ先の家族とは、30年来の交流が継続。今年も演奏旅行の合い間に再会し、旧交を温め合った。
子どもたちと家族バンドで共演も
音楽療法の観点から、高齢者施設への慰問活動に取り組む。披露する楽曲には、日本の唱歌を盛り込む。 「おなじみの唱歌である『谷間のともしび』や『埴生の宿』は海外で作られ、民衆に歌い継がれてきた民謡、フォークソングです。私が歌い始めると、体がほとんど動かなくても、足のつま先でリズムを取っている方がいらっしゃいます。歌が伝わっている。改めて音楽の力を感じますね」 ときおり中学生の長女、小学生の長男とバンド演奏を楽しむ。父を含めて3代続くファミリーバンドだ。家族愛を重視するアメリカ南部の原風景にもつながっている。 ホームページなどで長期的な公演スケジュールを告知し、こつこつと活動を組み立てていく。歩みは止めないが、急ぎはしない。「中高年世代向けに、このまま懐かしいブルーグラスを紹介していければいい。若い人たちには、電子音楽にはない、生歌(なまうた)、生音(なまおと)の良さを分かってもらえたら、うれしい。好きなことをして来られたのだから、少しはがんばらなければいけないですね」 ブルーグラスの伝道師に気負いはない。家族や仲間に支えられ、ギターを抱えた歌の旅が続く。 演奏会の予定などは稲葉さんの事務所「オフィス・ホワイト・オーク」の公式サイトで。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)