生見愛瑠&ヒコロヒー「女優業で躍進」した女性タレントに共通する「共感力」の正体
毎年、年末になると「今年は誰が活躍したか」「何が流行った一年だったか」と、振り返りの話題が多くなる。私のもとにも例に漏れずというか、ありがたいことに「どのドラマが良かったでしょうか」といった、質問が届く。 【写真】これはすごい……メガネ姿でイメチェンのめるること生見愛瑠 2023年を回想すると、今年は二人の女優の飛躍が(私の中で、だけど)近年稀に見るほど印象に残った。“めるる”こと生見愛瑠(21)と、ヒコロヒー(34)だ。 二人の共通点は「こんなに演技がうまかったの?」という、パブリックイメージとのギャップから始まる。両者ともバラエティ番組での雛壇ポジションをしっかりと確保。ヒコロヒーに至っては、司会を務めてもソツがない。このまま好位置を逃すことなく芸能界を闊歩するのかと思いきや、二人そろって演技の世界へ飛び込んだ。演じる役柄はまったく違っていても、女性からの共感票を得ることに成功。その詳細について、それぞれ考えてみたい。 ◆既存のイメージを残しつつ…めるるの安定した演技 2023年、“めるる”こと生見愛瑠が出演したドラマはメジャー作品ばかりだった。『風間公親―教場0―』(フジテレビ系)では、第4話でゲスト出演。身籠った子どもを身勝手な父親に奪われそうになり、殺害する大学生の役だ。「サスペンスにめるる……?」という所感はあったけれど、なんとか我が子を守ろうとする演技は完璧だった。時代が代わってもクズ男に翻弄される女性というのは、共感されやすい。 そして「このメンツにめるる……?」と、また疑念が勃発したのは『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系)。プライム帯(19から23時の間)放送の連続ドラマのヒロインに抜擢され、共演者は清野菜名(29)と岸井ゆきの(31)だ。二人とも日本アカデミー賞で表彰された女優である。この二人に囲まれて、気圧されることはないのかと見ていたら、そんな気配は微塵もなく、樋口若葉役をしっかり演じていた。しかも、いつもテレビで見かける、めるるの笑顔の雰囲気を残していたことに舌を巻く。母親に恵まれず、周囲に誤解を受けながら、祖母と生活する若葉役はよく似合っていた。 続けて『セクシー田中さん』(日本テレビ系)にも出演。この作品、一見するとコメディードラマだが、その奥には自尊心、自己肯定など、今誰もが悩むキーワードが隠されていた。ここで演じた倉橋朱里は、そのセリフがSNS上で話題になるほどに、人気を獲得した ここまで女優業がうまくいくと、もうバラエティ番組には出ないだろうなと思いきや、さにあらず。天然キャラはそのままで、今もバラエティでは年上のタレントたちに囲まれて楽しそうにしている。その二刀流もまたいいなあと思いつつ、2024年はテレビ東京あたりで主演が待っているのでは? と予想する。 ◆脱力感と漏れた本音に共感が集まったヒコロヒー 昨今、生活の端々で「虚像化する」ことがデフォルトになった。写真のアプリによる加工もそのひとつだ。身の回りにあるものすべてが事実ではないと言ってもいい。そんな世の中だからこそ、ヒコロヒーのような脱力感のあるキャラクターは、ついすがりたくなるような気持ちになる。タバコも酒も博打も好きだ! と全身で表現しているような、あの素直さよ。これもめるるが演じた役とは違う共感票が集まる。 そんな彼女も2023年はよくドラマで見かけた。『忘恋剤』(NHK総合)に始まり、『だが、情熱はある』(日本テレビ系)では、なんと山ちゃんの母親役に。ちなみに春クールは『わたしのお嫁くん』(フジテレビ系)とのダブルヘッダーでもあった。そして『泥濘の食卓』(テレビ朝日系)のゲスト出演を経て、このまま2023年は終わるのかと思いきや、2024年1月には映画『カラオケ行こ!』の公開が控えている。 ドラマで見ていた役はどれも、キャラクターが違っていて面白かった。役を操縦できるのは、やはりお笑い芸人の強さなのだろうか。そう、女優としても着々とコマを進めながら、彼女は芸人としても引っ張りだこ。だいぶハードな生活なのだろうと思っていたら、SNSに本音が漏れた。 「今日もくたくたに働いてくたくたになって帰ってきて。やのにポットとヒーター同時につけたらブレーカー落ちた。ウワーッて泣いた」 演者は客の前では本音を隠して演技を貫き通すもの。これは私が勝手に考えた言葉だけど、俳優にはそんなイメージがあって、だからいまだにSNSへ着手しない俳優がいるのには納得している。でも、奮励することを求められる現代だからこそ、ヒコロヒーの本音に共感する人も多いだろう。本音も時には功を奏するのだ。 今年、たくさんの共感を集めた二人の女優。自己へ、他者へとタイプは違うけれど、その共感は確実に誰かの背中を軽く押した。2024年も、いい顔を見られたら、と願う。 取材・文:小林久乃 エッセイ、コラムの執筆、編集、プロモーション業にラジオ出演など。著書に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)がある。静岡県浜松市出身。X(旧Twitter):@hisano_k
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