アメリカが仕掛ける「従属化」の危ないシナリオ…トランプ大統領「私たちの地球は第三次世界大戦の淵に立たされている」発言の意味
日本の多くの報道機関が予想できなかった米大統領選の「トランプ圧勝」。第一次トランプ政権の時よりも国際情勢が混迷を極める中で、トランプを筆頭とする米保守派による対日要求は想像を絶するものになりそうだ。 【マンガ】「取り違えたはずはない」男性のご遺体から飛び出した”2人の赤ん坊”の謎 (本記事は11月29日発売『反米の選択 トランプ再来で増大する“従属”のコスト』より抜粋・編集したものです)
「日本の予想」を裏切る結果
西側の大方の予想を裏切り、トランプが大統領選で圧勝し、政権に復帰することとなった。日本の報道だけを聞いているとこの結果に驚くこととなるが、選挙戦の最中に実際にアメリカを訪問し、民主党系のCNNテレビと共和党系のVOXテレビの両方を見ると、日本ではその前者の情報しか流されていなかったことに気づく。 また、少数ではあっても、現地で聞いた有権者の意見分布も日本の報道とはかなり違うもので、少なくとも私が訪問したアリゾナ州では路上の選挙パネルも圧倒的にトランプの方が勝っていた。 「トランプ2・0のアメリカ」が日本に求めてくるものは「トランプ1・0」の比ではなくなることが予想されている。ハリスであればバイデンの延長であろうと軽く構えていたのが大間違いであった、ということになる。 これは大変な失点であり、今から急ぎこの「トランプ2・0」に対処するためには、自民党から共産党まで、北海道から沖縄まで、富者から貧者までもここは一致団結して「過去の延長」でものを考えるのを止めなければならない。 ここは幕末の不平等条約締結時と同じで、この危機にただただ従順に従っているわけにはいかないからである。
選挙中から「日本」に複数回言及
実際、ハリスとトランプの国際関係への関心の度合いははっきり違っていて、民主、共和両党の大会での大統領候補の受諾演説ではハリスが日本にもアジアにも一切言及しなかったのに対し、トランプは日本に一度、アジアに三度の言及をしている。 また、中国への言及も一度しかなかったハリスに対し、トランプは十四度であるから国際問題への関心の強さがわかる。とりわけ、このうちの一箇所はトランプが唯一日本に言及したところでもあり、その両国──日本と中国が同じく黄金時代を追求しているとの言及となっている。トランプにとり、日本は中国を論じて初めて思いおこされる対象であるというのが情けない。 また、その上でさらに重要なことは、このアジアでの紛争の可能性が大いに強調されていることである。ハリスの演説ではウクライナとパレスチナの戦争が語られていても、アジアへの言及はなかった。だが、トランプは台湾、韓国、フィリピンについて次のように言う。 「世界がかつて経験したことのないような国際的危機が発生した。何が起きているのか、誰も信じられない。 ヨーロッパと中東で戦争が勃発し、台湾、韓国、フィリピン、そしてアジア全域に紛争の恐怖が漂い、私たちの地球は第三次世界大戦の淵に立たされている。兵器はもはや、互いに撃ち合いながら行き来する軍隊の戦車ではない。この武器は人間を抹消させるものだ」 もちろん、この発言は「戦争の危険がある」とのもので「戦争を起こす」と言っているのではないが、こうした危険性の認識を持って大統領となり、執務するというのである。 アメリカ大統領がこうしてアジアの特定地域に強い関心をもって対日外交をしてきた時、何が要求されるのか、という問題である。
大西 広(慶應義塾大学名誉教授)