あの時「屋根から転落した瓦職人」がいなければ「人類史上最も偉大な物理学者」は「生まれなかった」かもしれないという「衝撃の事実」
「たとえば、全宇宙が1個のバケツだと考えてみたらどうだろう?」 「猫のかわりに人間を入れてみたらどうだろう?」 【画像】《稀代の天才》アインシュタインが悔やんだ「生涯最大の過ち」 空間、重力、量子、確率…… 目に見えず、手でも触れない未知のものに囲まれている人類は とりあえずどこかに歩きはじめるため思考実験によってその正体の見当をつけてきた 思考実験とは 自然を拷問にかけ、極限まで追い込んで隠れた真理を「白状」させる行為だ。 仮説をどう立てるかも、設定をどう変えるかも、頭の中では自由自在。 だから思考実験は奇想天外で面白い。 人生の岐路でも役に立つその手法を思考実験の「名作」を通して学ぼう *本記事は、工学博士でありながら家業の旅館の経営者(現在は旅館の経営は引退)という異色のキャリアをお持ちの榛葉豊氏の著書『思考実験 科学が生まれるとき』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
アインシュタインの思考実験1自由落下するエレべーター
第3章では、歴史的に有名な思考実験の例を紹介しながら、実際に思考実験はどのように進められていくのかをみていきましょう。 まずは、アルベルト・アインシュタイン(1879~1955)の思考実験です。アインシュタインといえば思考実験といわれるほどで、実際の実験をなにひとつ行わず相対性理論を着想した天才ぶりは稀有のものですが、なかでも有名なのが、この思考実験です。 "あなたは静止しているエレベーターの中にいる。あなたの手のひらには、リンゴがのっている。いま、エレベーターを吊っているワイヤーが切れてしまい、なんとエレベーターは自由落下を始めた。しかし、あなたはそのことを知らない。 もしエレベーターが透明なら、外から見ている人には、あなたもリンゴもエレベーターの中で同じように落下していくように見えるだろう(ニュートン力学によれば物質は初期位置と初期速度が同じなら重さにかかわらず同じ軌跡を描くので)。あなたとリンゴの相対的な位置関係は変わらない。落下を始めたときにリンゴがあなたの手のひらから1cm離れていたとすれば、そのままリンゴはふわふわ浮いているように見えるだろう。しかし、もしエレベーターが透明ではなく外が見えなかったら、あなたはそこが無重力空間になったと感じるだろう。 ということは、自由落下するエレベーターの中では、重力は消えていることになる。つまり、加速度運動をするエレベーターに乗ることで、重力を消すことができる。ならば、重力と加速度運動は等価なのではないだろうか?" これはアインシュタインが重力と加速度の「等価原理」と呼ばれるものを見いだし、のちの一般相対性理論の構築につながったきわめて重要な思考実験です。こんなことを彼が思いついたのは、子供の頃に屋根から瓦職人が落下するのを見たことがあったからのようです。 あるできごとから何かを思いついたら、過去に似たような経験がないかを探してみることは、思考実験のはじまりです。現代なら、遊園地で垂直に落下するフリーフォールに乗ったときなどに重力がなくなったように感じて、NASAが宇宙飛行士の無重力訓練をしている映像を思い出す人もいるでしょう。内部が空洞になった大型輸送機に訓練生を乗せて、高く上昇したあと急降下するような訓練です。そのような思いつきを精密化したものが、このアインシュタインの思考実験です。 地上がどんどん近づいてくるのが見えたり、強い空気の圧力を感じたりすることは、この状況ではよけいなもの、夾雑物(きょうざつぶつ)です。これを頭の中で取り除くのが、思考実験ならではの理想化です。よけいなものはすべて排除して、必要な要素だけを思い描くのです。