アスリートのポテンシャルは“10代の食習慣”で決まる! 「栄養素はチームじゃないと働かない」
アスリートのポテンシャルは、ジュニア世代や10代までの食習慣がカギになると言われる。スポーツ栄養士の石川三知氏は、子どもたちがしっかりした骨や筋肉を形成し、選手としての可能性を広げるために「まず、体の仕組みを知ることが大切」と言う。「噛む」ことや消化機能の高め方、「好き嫌い」への対策や気をつけた方がいい食べ物など、伸び盛りのジュニアアスリートやその保護者たちが知っておきたい、カラダ作りの大切なポイントについて石川氏に話を聞いた。 (インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=©URAWA REDS)
「咀嚼」の重要性を知って食事への意識が変わる
――プロアスリートを目指す子どもたちが、ジュニア世代の食習慣で気をつけた方がいいことはありますか? 石川:まず、食べる姿勢が大切です。窮屈になる必要はありませんが、いわゆる正しい姿勢で食べて欲しいです。食べ物は体の一部になるまでには、口から栄養素を吸収する小腸まで移動する必要があるからです。背中を丸めたりせず、消化管が動きやすい状態を整えることが大切です。それから、よく噛むこともすごく大事です。理想は噛むところがなくなるまで噛んでそれを嚥下(飲み込む)して先に送ることが重要です。まず一口15回ずつ噛んでみてください。あっという間に終わったと感じたら、普段から噛めているし、「まだ噛むのか」と感じるようだたら、普段の咀嚼回数が足りていないのだと思います。 ――石川さんは「食べる」ことについて体の仕組みから理解することが大切とお話されていましたが、「噛むこと」の大切さについてはどんなふうに考えたらいいんでしょうか。 石川:消化には、大きく分けて「機械的消化」と「化学的消化」という2つがあるんです。機械的消化は、食べ物を砕いて、細かくして先に進ませるものです。小腸に届かせるために、まず食べ物を先に進ませることが必要ですよね。「化学的消化」は、食べ物が消化液に触れて変化していくことです。例えばお肉などのたんぱく質食品は胃液で消化が始まるのですが、自分で胃液を出そうとしてもできないですよね。でも、しっかり咀嚼していると唾液を出すことができますよね。実は、唾液がしっかり出ると、脳がそれを感じて、1回の消化に必要な2、3割の胃液を先に分泌させるんですよ。そこに噛んで細かくなり、表面積の増えた食べ物が入ってくると胃液に触れやすくなりますし、胃の運動が活発になることもわかっています。胃が動くと、次は胆嚢から胆汁、すい臓からすい液、最後の小腸で腸液と順に分泌され、例えばお肉だったら、それらの過程を経ることでアミノ酸という最小単位に変化して腸の壁から吸収されていくシステムになっています。噛むことは消化吸収のシステムにスイッチを入れる作業なんです。これは、幼稚園生や小学生にも必ず伝えるんですよ。 ――最初のスイッチがしっかり入れば、消化しやすくなるんですね。 石川:そうです。つまり、消化液を分泌させることも、食べた物を消化管の先に進ませることも自分の意思ではできないけれど、それが唯一できるのが、口の中です。噛んで唾液を分泌させること、細かくして嚥下すれば、口から胃の入り口までの短い間でも先に進ませることができます。消化管も筋肉でできているので、長い消化管の最初のところを動き出させれば、動くスイッチが入るんです。 ――噛むことの意味が腑に落ちると、毎回の食事への意識も変わりそうですね。石川さんがサポートしてきたアスリートの皆さんも、こういうことを理解していく中で行動が変わっていったのですか? 石川:行動変容には思いの変化が必要です。こういった科学的なこととか体の仕組みを知って納得してもらうことが大切ではないかと思います。「これをやったらすごく得するんじゃないかな?」と思ってその成果を体感すれば、さらに真剣に取り組むようになりますから。 プロは生活がかかっているし、アマチュアの選手だってタイトルや代表への道がかかっていますから、最初は人の言うことを鵜呑みにはしません。ですから、そこでちゃんと信用してもらえる情報提供が大切だと思っています。彼らが結果を出すために、私が学んできたこととか、持っている情報を活用したいと思ってもらう。その上でパフォーマンスが良くなるようにして、個人やチームの勝利にコミットするのが私の仕事です。だから、「何を食べればいい」ということだけを伝えるのではなくて、結果を出せる体になるための食べ方の根拠を伝えることをいつも大切にしています。