アレルギーは進化によって生まれた…現代人を悩ませる免疫暴走による病は、じつは「感染爆発の繰り返し」が出現させた、という「衝撃の指摘」
近代医学が解き明かす自己免疫の謎
近年の医学の進歩は、この謎を解明しつつあります。遺伝子の解析技術、そしてバイオインフォーマティクス(生命情報科学)という学問の発達によって、我々はシベリアの氷につつまれていた古代人の骨から遺伝子を取り出して、それを、あたかもその古代人の細胞が生きているかのように、それぞれの免疫細胞の働きを再現できるようになってきました。 その結果見えてきたのは、自己免疫疾患やアレルギーというのは、人類が何万年もの年月を様々なエピデミック(地域における感染爆発)を乗り越えながら生き延びてきたことと、切っても切れない関係にある「宿業の病」である、という姿です。 抗生剤もワクチンもなく、エピデミックと絶望的な戦いを繰り広げてきた過去の人類と、新型コロナとともに生きる現代の私たち、そして、冒頭に提示したような未来の人類、それらはすべて遺伝子という見えない糸によってつながっています。 そして、それらの糸がからみあったとき、免疫暴走による病は出現するのです。
病気はなぜ起きるのか?
ここで遺伝学やバイオインフォーマティクスの考え方を、ごく簡単に説明しておきます。 私たちは個々人で少しずつ異なった遺伝子をもっています。ヒトの遺伝子は、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)というたった4個の塩基の組み合わせによって書かれています。 しかし、その配列はヒト一人で約30億個に及び、それが個々人の違いを形作っているのです。その天文学的な数字になる遺伝子配列同士の関係を、確率論や統計学などの数理学的手法を用いてコンピュータで比較解析していくのが、バイオインフォーマティクスという学問になります。
免疫学はテクノロジーとリベラルアーツの交差点を渡ろうとしている
これらの学問の発達によって、例えばある病気にかかわる遺伝子変異を見つけ出し、その遺伝子変異を持つ人が、ある村である時代を境に急に増加した、というような事実を明らかにすることができるようになりました。 そこから、その遺伝子変異が生まれることとなったイベントを、歴史や文化(例えば疫病の発生や異民族との交配、特有の食習慣など)の観点から紐解くことで、病気の原因となったナラティブ(物語)をみつけだすことができるのです。 今は化石となっている過去の生き物や、感染微生物にも、それぞれが病気の発生につながることとなった物語があり、遺伝学やバイオインフォーマティクスはそれを解明するための助けとなります。 スティーブ・ジョブズは「テクノロジー(自然科学)とリベラルアーツ(人文科学)の交わるところにこそ大きな価値がある」と述べましたが、「免疫学」は今まさにこの交差点を渡ろうとしているのです。