フリーアナウンサー・神田愛花『神田大先生は、赤字です!』
気分はもう″神田大先生″
今年7月8日、私にとって初のエッセイ本『王道っていう道、どこに通ってますか?』が出版された。この連載をまとめ、加筆修正したものだ。フリーアナウンサーになった時の目標の一つが、生意気にも執筆のお仕事をすることだった。文章の書き方なんて学校で習った最低限の知識だけだったが、関係者のみなさんのおかげで本になるだけのエッセイを書き続けることができた。そのため、本の出版準備にはかなり気合が入り、自分なりにお金をかけたのだ。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~68回)はこちら そして先日、私にとって初の本の印税が事務所から振り込まれた。届いた明細の封筒を開けて、ドキドキ……中の紙を取り出して、ワクワク……広げて見て……「えー!? 赤字!!」。なんと赤字にしてしまったのだ。 みなさんは旅行先の宿で、「生前、◯◯先生はこちらのお部屋で執筆をされていました」と案内されたことはないだろうか? 私はその経験から、偉大な作家先生たちは、″いい宿″に籠もって執筆作業をしていたことを知った。その度に(わざわざ泊まらなくても、家でできるでしょ!)と思っていたが、ちょっと格好いいとも感じていた。だから自分の本の出版が決まり、締め切りを言い渡された時にまず、「よし! いい宿に籠もらなきゃ!」と考えたのだ。 さて、どこに泊まろうか。初めて泊まる宿は勝手がわからず、落ち着かないだろう。それに私は外の景色を眺めて気晴らしをするため、大きな窓が必要だ。欲を言えば、バルコニーがあると風に当たれてなおよい。しかも平日はフジテレビ系『ぽかぽか』の生放送があるので、週末にサッと行ける立地が◎。それらを加味して浮かんだのが……「パレスホテル東京!」だった。 パレスホテル東京は丸の内にあり、フジテレビのあるお台場とは車で20分くらいの距離。しかもバルコニー付きのお部屋からの眺めが、ニューヨークのセントラルパークによく似ているのだ。なかなか海外旅行に行けなかったコロナ禍、ニューヨーク好きの私たち夫婦は、何度か宿泊して気分転換をしたことがあった。 ただ、かなりの高級ホテル。金曜午後から週明け月曜朝まで籠もると、3泊だ。一人でパレスホテルに3泊だなんて、身の丈に合っていない。だがここ以上にぴったり条件に合うホテルもない。(初めての本だもんなぁ。後々印税も入るし、必要経費だ!)と、予約をした。 高級ホテルでの3日間は終始ポジティブな気持ちをキープでき、想像以上に作業が捗った。白くて大きなベッドのシーツはずっとピシーッ! アメニティも常にフル装備! バルコニーに出ればそこはニューヨーク! 気分はもう″神田大先生″だった。 ◆「印税入るし、いいよね?」 大先生は、途中脳を休めるためにホテル内の高級エステを堪能。念のため持参した水着で、一日1回プールでウォーキング。籠もるための宿泊なので、当然お食事はルームサービス。夜はガラス張りのバスルームで入浴しながら晩酌もした。 だがチェックアウト時、その金額に内心ビックリ。(うっ……でも印税が入る!)と、思いながら支払いを済ませた。 そして人生で初めての本が完成! よく通りかかる本屋さんに自分の本が並んでいるのを見て、心から感動した。(私は本当に本を出せたんだ)と実感が湧くと、涙が出そうになった。また、お世話になっている方には直接お渡ししたいと思い、150冊、自費で購入した。この時も金額を見て(うっ……)となったが、(後々印税が入るし!)と気持ちを切り替えた。 そんなこんなで、エッセイ本出版に関する個人的な出費は膨れ上がり、印税に期待し過ぎた結果、実際の入金額が出費額に及ばず、赤字にしてしまったのだ。 すべて私が悪い。高級ホテルに籠もった上、エステなんて必要なかったし、夜ご飯だってカップラーメンで十分だったのに。書き手として実績がないのに、過去の偉大な先生たちの真似をして、気持ちが神田大先生になってしまった……。 もし有り難く2冊目の出版が決定したら、その時は自宅のダイニングテーブルで、木目のガタガタが字に響かないよう、どこかで拾って来た厚紙を敷いて、作業をしようと思う。頑張るぞ!!! かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年11月22・29日合併号より イラスト・文:神田愛花
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