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なぜ日本兵1万人が消えたままなのか、硫黄島で何が起きていたのか。 民間人の上陸が原則禁止された硫黄島に4度上陸し、日米の機密文書も徹底調査したノンフィクション『硫黄島上陸　友軍ハ地下ニ在リ』が11刷決定と話題だ。 【写真】日本兵1万人が行方不明、「硫黄島の驚きの光景…」 ふだん本を読まない人にも届き、「イッキ読みした」「熱意に胸打たれた」「泣いた」という読者の声も多く寄せられている。

遺骨行方不明の要因7「在島米軍兵士の盗掘横行？」

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次の一文は、1968年度報告書にあった。〈今次調査の際壕内において発見した遺骨は158柱である。これらは比較的新しく発見(ロラン局のアメリカ人、自衛隊派遣隊員及び今次調査)した壕であって『昭和27年調査報告』の壕から発見したものは少ない〉。 なぜ15年前に見つかった壕には遺骨が少ないのか。1955年まで島内にいた高野建設の作業員たちが善意で遺骨を収集したためだろうか。ただ、作業員たちが収集したのは〈地上及び目につきやすい地下壕等〉(1968年度報告書)にあった遺骨だという記録もある。 謎を解く鍵かもしれないと思った記録は、同年度報告書に綴じられた〈8月4日〉の日誌にあった。〈午前午後ともロラン局勤務の米人数名が、蕃刀、懐中電灯をもって洞窟探しをしているのに出合った。現在でもなお、洞窟探しをしているらしい〉。 硫黄島は施政権が日本に返還された後も、米国沿岸警備隊の隊員たちが駐屯し、島北部のロラン局で任務に当たっていた。日誌に出てくる〈米人数名〉とは彼らのことだ。彼らは何らかの目的を持って地下壕への出入りを繰り返していたようだ。 同じことは戦後、硫黄島の基地に勤務した米軍兵士たちも行っていたようだ。〈栗林壕には米軍が電気をつけていたらしい。120Wの電球あり〉と1968年度報告書にある。大勢の米軍兵士が戦後、出入りしたのだろう。こうした壕はほかにもあったと推察される。 壕に入る目的は何だったのだろう。好奇心を満たすためだったかもしれないし、日本側死者を弔うためだったかもしれない。しかし、そのどちらでもない衝撃の目的を、毎日新聞は1987年8月15日付朝刊の1面トップ記事として大々的に報じていた。見出しはこうだ。 「駐留軍、米へ持ち帰り　硫黄島戦死日本兵の頭骨　少なくとも千体以上　30余年の沈黙破り　米側に返還申し入れ」 記事を要約すると、次の通りだ。 〈日本軍戦死者のおびただしい数の頭蓋骨が米国に持ち去られていたことが、戦後42年たって明らかになった。政府の遺骨収集に協力する生還者らの団体「硫黄島協会」の調査で分かった。同協会は日米友好に悪影響が及ぶことを懸念し長年、沈黙を守り、厚労省もひた隠しにしてきた。「一刻も早く返還してもらい、手厚く葬る時期がきた」と判断し、7月に協会幹部が渡米、沿岸警備隊当局などに協力を要請した。今後、日米双方のメディアにも呼びかけ、米国に渡った頭蓋骨の帰還運動を展開していく(要約)〉 記事によると、この時点で、硫黄島で収容された遺骨は約7000体を数えるが〈このうち四千柱は頭骨がなく、厚生省は大たい骨二個で一体確認とする“硫黄島方式”で、遺骨を数え〉たという。 記事では関係者の談話も並ぶ。1952年の調査団員の一人である同協会の和智恒蔵会長の証言はこうだ。〈少なく見積もっても一千人以上、多ければ三千人もの頭がい骨が持ち去られた。(昭和)二七年に島へ渡った時には、米軍の将校用食堂に、荒縄で鉢巻きをした頭がい骨があった〉。 厚生省援護局の大西孝夫・庶務課長のコメントが続く。〈米兵が記念品として持ち帰ったケースがあることは聞いていた。日本人の感情とは違い、遺骨をモノとしてとらえているようだ〉。 僕は2019年の遺骨収集団参加時、“首なし兵士”が見つかったときのことを思い出した。あのとき、ベテラン団員の水野勇さんは僕にこう言ったのだ。 「頭がそっくりない遺体が多い島なんだよ」 故郷に家族を残して絶望の島に送られた末、死後もなお家族の元に帰ることができないどころか、亡骸の一部を敵兵に略奪されて異郷の地の闇の中に消えていった……。そんな硫黄島兵士が無数にいる。 米軍兵士の「記念品集め」によって、全身の骨が揃わなくなったり、ばらばらに四散したりし、「1体」とカウントできなくなった遺骨も相当数に上ると推察される。このことも、1万人が行方不明のままという現状に至る大きな一因になったのではないか。