「どんな時も湿っぽくならない…」NHK朝ドラ『ブギウギ』をワクワクさせる脚本家・足立紳氏の存在感
趣里がヒロインを務める朝ドラ『ブギウギ』(NHK)。第8週では、ヒロイン・スズ子の母・ツヤ(水川あさみ)が病死。悲しみにくれるかと思いきや、思わぬサプライズが待っていた。 【圧倒的存在感!写真あり】蒼井優が松田龍平と商店街に降臨…!ママになっても変わらぬ「女優オーラ」衝撃写真 今回の朝ドラは、『東京ブギウギ』や『買物ブギー』など数々の名曲を歌った戦後の大スター、“ブギの女王”と呼ばれた笠置シヅ子がヒロイン・福来スズ子(趣里)のモデル。歌や踊りと持ち前の明るさで、傷ついた日本を明るく照らすヒューマンストーリーである。 第39話では、本番を終えたスズ子が大阪に帰郷。危篤の母と再会を果たす。 このまま永遠の別れが訪れるかと思いきや、物語は急転。アホのおっちゃん(岡部たかし)が一週間かけて探してきた桃を食べると、ツヤは元気を取り戻し“はな湯”は活気を取り戻す。 しかしそれも束の間。再び病床についた最愛の母のために、スズ子が『恋はやさし野辺の花よ』を歌い、笑顔に包まれたままツヤは旅立っていく。このなんとも目まぐるしい展開に、ネット民からも驚きの声が上がっている。 「今までの朝ドラなら、母との別れをしっとりと描くだけで終わっていたでしょう。ところが今作は“どんなときも湿っぽくならない”のが、大きな魅力。 アホのおっちゃんが探してきた桃を食べ、奇跡的に元気を取り戻すミラクルな展開も『最後は明るくツヤさんを看取りたい』と考える脚本家の足立紳氏が、時間をかけて練り上げた脚本の賜物だと制作統括・福岡利武プロデューサーは話しています」(制作会社ディレクター) しかしミラクルな展開は、まだまだ続く。第40話では、ツヤを失い“はな湯”を閉めようかとスズ子たちが考えていた矢先、記憶喪失の従業員ゴンベエ(宇野祥平)を知る光子(本上まなみ)が登場。2人は夫婦になり、“はな湯”を引き継ぐ大団円。ツヤが昔書いた“人相書き”が功を奏して“はな湯”を救う、あっと驚く伏線回収劇には「お見事」としか言いようがない。 脚本家として映画『百円の恋』(’14年)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。監督としても映画『喜劇 愛妻物語』(’20年)、映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』’‘23年)を手掛けて来た足立紳氏の作風には独自のこだわりがある。それは自身の経験や身近な人間を登場人物のキャラクターに反映させることである。 「安藤サクラ主演の『百円の恋』では、37歳のとき生活が苦しく“100円ショップ”で働いた足立氏の経験が生かされています。さらに『喜劇 愛妻物語』では、自分たち夫婦の物語を赤裸々に描いて魅せるなど、足立氏はこれまで私小説的な世界を描くことで注目を集めてきました。 今作『ブギウギ』で言えば、水川あさみが演じたヒロインの母・ツヤには足立氏の母の姿が投影されていますし、ヒロインの弟・六郎は、足立氏の息子がモデルと本人も明かしています」(前出・ディレクター) 今年公開された映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』は、幼少期に足立監督の周りに実在した子供たちをモデルに、環境やいじめなどの悩みを抱えた小学生7人が懸命にもがきながら成長する姿を描いた物語。今作は『第15回TAMA映画賞』で、是枝裕和監督の映画『怪物』とともに最優秀作品賞に輝いている。 ちなみに永瀬正敏が演じる強面ヤクザの真樹夫も子供の頃、隣に住んでいた顔に火傷のある本当に怖いヤクザがモデル。実はこの脚本は、師事していた『セーラー服と機関銃』『魚影の群れ』などで知られる映画監督・相米慎二氏に生前、唯一褒められた脚本が下敷きとなっている。 「薬師丸ひろ子や斉藤由貴など演技経験の浅い若手女優には、演技の説明をせず俳優自身に芝居を考えさせ、相米監督が満足のいく芝居が出てくるまで何度でもやり直しをさせる。この鬼のような演出方法で、多くの女優たちを育ててきました。 その結果生まれる芝居は、自分自身で考え発見した芝居だから躍動感にも溢れ、特別な輝きを放っている。相米監督は勿論のこと、足立氏自身もその瞬間に何度も立ち会ってきたはずです」(制作会社プロデューサー) 脚本とは、俳優たちが特別な輝きを放つ源。それだけにおろそかにできない。 だからこそ、自分自身が目の当たりにしてきた真実こそが尊い。そんな思いから脚本家・足立紳は、私小説的な作品作りに挑んでいるのか……。 いよいよ時代は、戦時下に突入。朝ドラの最大の見せ場といわれる戦争を、足立氏がどう描くのか。心がズキズキ、ワクワクしているのは、私だけではあるまい――。 文:島右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版中
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