チェスや碁に続き「短歌」もAIが…?短歌をつくるときに「AI」をどう活用できるのか?
似ている歌を教えてくれたら
先ほども例に挙げましたが、短歌をつくっているときに「この歌、どこかで見たかもしれないな」と思うことがあるかもしれません。いい歌ができた気がするが、どうもそれにしては簡単にできすぎた。そんな時、つい誰かの表現を借りてきてしまったのではないかと、不安になるものです。 これは『AIは短歌をどう詠むか』第3章の最後で述べた「忘れられなさ」にも通じる内容ですが、私たちはいつかどこかで目にした歌の表現に刺激され、それが無意識的に頭に残っている、ということがきっとあるでしょう。そんな時、頭の中にこれまで目にした歌がすべて入っていれば、とまではいかなくとも、ひょっとしたらあの歌集に収められていた一首かもしれない、と、付箋のついた本をすぐ手にとれれば良いですが、そう簡単にいかないこともあります。 むしろ、どこだったかわからない、というところまで「頭の中の短歌の海」が広ければいいな、とさえ思えてもきます。この世界には私を掴んだ歌が大量に存在していて、そんな蠢きの中に自分があり、またそこへ一つの歌を足していく、そしてそれがどこかの誰かをまた新たに摑む……といった循環に身を置いているのが私たちではないでしょうか。 そんな渦中にいる私たちが、いつかどこかで出会った「あの歌」を見つけ出すのは、そう容易ではありません。一方、『AIは短歌をどう詠むか』第1章で紹介した「朝日歌壇ライブラリ」では、文ベクトルによって計算される文の類似度を使って、入力された言葉と近い意味を持つ短歌を見つけることができます。 このような文の類似による検索を用いることで、例えばいまあなたがつくっている短歌と似たものがないか探すことも可能でしょう。それは文字列の一致を超えた意味の類似によって計算されるものなので、語彙的な表現を超えたアイデアの類似をも、見つけることができるかもしれません。 そのためには、過去につくられた歌をすべて集めたデータベースのようなものが必要です。例えば俳句では、現代俳句協会の運営する「現代俳句データベース」が存在します。これは「明治以降の広い意味での秀句、歴史的に価値のある俳句作品を網羅することを目指し」てつくられたもので、現代俳句協会受賞作品全句、現代俳句協会歴代会長作品、歴代俳句大賞作品、現・現代俳句協会役員作品、IT部員の推薦句などを収録しているのだそうです。 しかし、短歌には現状そういったものはありません。また、この世の中に存在するあらゆる歌を電子化して一元的に管理することは、技術的にもモラルの面でも課題がありそうです。それでも、例えば自分がこれまでに触れた歌や、過去につくった歌を記録してくれるような仕組みがあれば、どこかで出会って忘れられずにいた歌が無意識に浮かんで、その歌と似た表現をうっかりしてしまう、といったことを避けることができるでしょう。ここで言葉の意味を計算するAIが、その力を発揮してくれます。 例えばこれまでに触れて気になった歌をテキストデータ化するなどして、あなただけの短歌データセットを持っておくのはいい方法でしょう。「言葉が計算できる」いまの世界において、それはまるで歌集に付箋を貼るような、自然な行為になるかもしれません。
浦川 通