もし『キングダム』で一騎討ちトーナメントをしたら誰が最強? 武道家が真剣に予想
大ヒット上映中の『キングダム 大将軍の帰還』において、やっと本気の王騎将軍(大沢たかお)を観ることができた。宿敵・龐煖(吉川晃司)との対決において。感無量だ。だがひとつ不満がある。完全決着がつかなかったことだ。 【写真】今回セッティングした一騎討ちトーナメント表(出場武将一覧) ※以下、『キングダム 大将軍の帰還』の結末に触れています 『キングダム』シリーズで描かれる戦いは、基本的に「戦場」で起こるものだ。複数VS複数である。ぐちゃぐちゃの乱戦である。だが、ひとたび大将同士の一騎討ちが始まると、みな戦闘を中断して観戦に回る。そりゃそうだ。職場のオフィスで突然リネール(フランス)とウルフアロン(日本)が戦い出したら、みんな仕事を中断してでも観るだろう。 だがどうやら、戦場における一騎討ちのルールが明文化されてるわけではないようだ。当然、邪魔をする無粋者がいる。万死に値する。結果的に勝った龐煖も、「水をさされた……。だから戦などはつまらぬと言うのだ」と、大層不満気だ。 ならば、一騎討ちのトーナメントを組めばいいじゃないか。一対一で、気が済むまでやり合えばいい。嬴政(吉沢亮)に頼めば、大規模な大会も開いてくれるだろう。スポンサーは、呂不韋(佐藤浩市)に依頼しよう。王座を脅かすほどの、巨万の富を貯めこんでいるそうじゃないか。ここはひとつ、男気を見せてもらおう。レフェリーは、熱い(暑苦しい)文官・昌文君(髙嶋政宏)に任せよう。必ずや、時に選手より目立ってしまうような、熱いレフェリングを繰り広げてくれるだろう。 試合は、8名によるトーナメントで行われる。なお各選手の戦闘力は、『キングダム 大将軍の帰還』の物語開始時点でのものとする(したがって、8名は全員まだ存命である)。「原作ではこれからもっと強くなるのに!」というクレームは受け付けない。 出場選手を紹介しよう。まずは主人公の信(山﨑賢人)だ。彼はさすがに外せない。映画4作目時点での彼はまだ百人将でしかないが、その果てしない伸びしろを買われての出場だ。 続いて羌瘣(清野菜名)。信と同じく位は低いが、蛇甘平原の戦いで死体の山をバリケードにした判断力、及び蚩尤としての戦闘力が評価された。 そしてランカイ(阿見201)である。1作目で首を搔き斬られたかに見えたが、首が太すぎるため、頸動脈に届いていなかったようだ。兄・嬴政への謀反に失敗し、さんざんお仕置きされてもまだ懲りていない成蟜(本郷奏多)が、ねじ込んできた。当時の中国で精製可能な限りの薬物を投与し(今で言うドーピング)、さらにパワーアップした肉体は、もはや反則級だ。 ここからは、将軍レベルの男たちだ。まずは、王騎将軍の側近・謄(要潤)である。長らく「本当に強いのか?」と思われていた男だが、4作目においてついに必殺の「ファルファル」を繰り出した。 続いて、秦将軍・蒙武(平山祐介)。そのパワーは秦国一ながら、オフェンス(攻撃)に偏りすぎているところが弱点だ。だがそれは集団戦での話であり、今回は一騎討ちだ。一気に優勝をかっさらう可能性もある。 そして、大将軍・麃公(豊川悦司)。戦および勝利後の酒を何より愛する男。あの王騎将軍に酒を強要できる男。戦いを愛し、戦いに愛された男だ。優勝候補の一角である。 大トリはもちろん、“天下の大将軍”、“秦の怪鳥”王騎の登場だ。頭一つ、いや、頭二つは飛び出した絶対王者である。余裕の笑みを浮かべたまま、全試合秒殺で優勝する可能性は大いにある。 この時点で7名。全員秦国の戦士であり、言わば同胞だ。仲間同士、あるいは上司と部下の関係であるため、忖度、手加減、なれ合いが生じる恐れがある。そうなってしまっては興ざめだ。金を取って観せる試合に、そんなことがあってはならない。 そこで、特別ゲストを用意した。最後の8人目は、趙軍総大将・龐煖である。言うまでもなく、王騎将軍の因縁の相手であり、最大のライバルだ。彼らのリマッチが実現すれば、それだけで金が取れる。現代なら、東京ドーム辺りで行うべき試合だろう。 昌文君、呂不韋、昌平君(玉木宏)に趙国の李朴(小栗旬)を加えた4人による合議の結果、組み合わせは決まった。 1回戦第1試合、王騎VSランカイ。パワーアップしたランカイは、昌文君の「はじめ」の声と共に、王騎に突進する。動きは遅かったはずのランカイだが、薬物の力で俊敏になっている。その様子をいやらしい笑みを浮かべて見守る、セコンドの成蟜。だが王騎は、大矛による横胴一閃、ランカイを真っ二つにする。その間4秒。王騎は余裕の笑みを崩さず。気付くと成蟜は逃亡していた。 1回戦第2試合、蒙武VS信。愛用の大錘を振り回し、蒙武が信を追い詰める。だが蒙武の攻撃は、斬撃ではなく打撃だ。打撃では信を倒せない。“打たれ強さ”は、信の最大の武器のひとつだ。ザコなら一発で潰されたランカイの張り手にも、普通なら死んでいるはずの龐煖による打突にも、信は耐え抜いた。信を倒すなら、蒙武は矛を用意すべきだった。並びに、上背がある上に戦闘時は馬上から見下ろす状態が常の蒙武は、頭上からの攻撃に慣れていない。信の代名詞とも言えるハイジャンプからの打ち下ろしに、蒙武は撃沈する。だが、勝った信のダメージも大きい。セコンドの河了貂(橋本環奈)の肩を借り、半死半生で退場する。準決勝の相手は、あの王騎将軍である。そんな状態で大丈夫か、信。 1回戦第3試合、麃公VS羌瘣。将軍・麃公相手に運動量で攪乱し、羌瘣は食い下がる。麃公はともかく、馬が羌瘣の動きについていけない。だが、次第に羌瘣の動きが鈍くなる。羌瘣唯一の弱点とも言える、スタミナ切れを起こしたようだ。動きの止まった羌瘣の剣を矛で弾き飛ばし、矛を喉元に突き付け、麃公は降参を迫る。姉貴分・羌象(山本千尋)の仇を討つまでは死ねない羌瘣は、負けを認める。麃公は、羌瘣に話しかける。「羌瘣、亜水まで来い。酒を飲むぞ」「いや、あなたはこの後2回戦が……」「羌瘣。酒じゃア……!!」聞いちゃいねえ。 1回戦第4試合、龐煖VS謄。王騎の側近である謄にとって、その王騎の許嫁を殺した龐煖は、同じく憎むべき相手である。得意の「ファルファル」をフル回転させて龐煖に迫るが、大矛に弾き飛ばされ、トドメを刺される寸前で、レフェリー・昌文君が止めに入る。昌文君に救われた形となった謄だが、もしこの試合が、王騎が龐煖に殺された後に行われていたらどうなっていたか。謄は、勝てないまでも必ず刺し違えていたのではないか。 準決勝第1試合、王騎VS信。1回戦の蒙武戦でのダメージが深い信は、短期決戦に出る。蒙武と同じく王騎も頭上からの攻撃に弱いと判断した信は、ハイジャンプからの打ち下ろしを狙う。だが、信が雑兵の頃から彼の戦いを見守ってきた王騎は、その攻撃を読んでいた。大矛で、頭上の信の胴を薙ぎ払う。誰もが真っ二つになった信を想像したが、信の胴体は繋がっている。王騎の斬撃は峰打ちだったのだ。だが峰打ちとは言え、王騎の横胴をまともに喰らったのだ。いくら打たれ強い信とは言え、無事では済まない。片側の肋骨はほぼすべて折れ、100mは吹き飛んで失神してしまった。“天下の大将軍”との一騎討ちを経て、信はさらなる急成長を遂げるはずだ。回復には、相当の時間を要するだろうが。 準決勝第2試合、麃公VS龐煖。麃公が羌瘣を連れて亜水に酒を飲みに行ってしまったため、龐煖の不戦勝。闘志のやり場を失った龐煖は、爆発寸前だ。恐ろしくて誰も近づけない。唯一李朴だけが、必死になだめている。ちなみに麃公は、勝負から逃げたわけではない。人の話を聞かない麃公は、この大会がトーナメントであることを理解していなかっただけだ。きっと前夜に、「いいですか、麃公様。明日の大会で勝利するには3試合し」「酒じゃア!!」「(聞いちゃいねえ!)」みたいなやり取りがあったと思われる。 宮女たちによる美しい舞いが披露された後、いよいよ決勝戦が始まる。王騎VS龐煖である。映画では、邪魔が入り腑に落ちない結果となったこの戦いに、完全決着がつくのだ。この戦いにレフェリーはいらない。そもそも、錯綜する大矛に巻き込まれて危険だ。昌文君にはご退場願おう。本来勝敗の行方なんて、第三者に委ねるものではない。戦った2人が、いちばんわかっているはずだ。 筆者も一応“武”を嗜んではいる。だが自分自身の戦力を客観的に判断した結果、せいぜい伍長ぐらいのものだと思われる。澤圭(濱津隆之)や尾平(岡山天音)と同レベルだ。伍長レベルの人間が、天下の大将軍と武神の対戦結果を予想するなど、おこがましいにも程がある。筆者は、ただの観客に回る。王騎将軍と龐煖の美しい戦いを、永遠に観ていたい。できるだけ、近くで観ていたい。結果、大矛に巻き込まれても悔いはない。
ハシマトシヒロ