『セクシー田中さん』小学館報告書が日本テレビを“論破”も…元テレ朝法務部長が指摘する「やり切れなさ」
結論部分で日本テレビを「論破」
他人に勝手に原作を変えられない権利。それは作者の分身である作品が蹂躙(じゅうりん)されないためのもので、やむを得ない場合以外は勝手な改変は許されない。これは作者の人格を守る「著作者人格権」の中でも、最も大切な権利の一つだ。そして、小学館の報告書にはこう記されている。 「最後は同一性保持権の壁があるのであり、原作者の意見を尊重しなければならない。原作者の意向を反映しないドラマ制作者はその役割を果たしているとは残念ながら言えない」 結局、そういうことなのだと思う。著作権法の根幹を示した小学館の見解に対して、日本テレビ側の主張に法律上の根拠を見つけるのは難しかった。今回の小学館の報告書は、日本テレビの報告書を結論部分では「論破」したと言えるのではないか。 でも、それでいいのだろうか。 この事件ではかけがえのない生命が失われている。芦原さんの思いに少しでも寄り添い同じような悲劇を繰り返さないようにするために、必要なのは「冷静な事実の調査」だ。互いの立場を主張し合う論争ではない。 今回の両社の報告も踏まえ、第三者の立場から静かに事実を確認していく取り組みは行われないのだろうか。このままだと残るのはやり切れなさだけなのではないかと感じている。 □西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube「西脇亨輔チャンネル」を開設した。
西脇亨輔