『ゴジラ-1.0』山崎貴の“本領発揮”はまだ先に 虚構vs現実を踏襲したことで生まれた齟齬
『シン・ゴジラの逆襲』VS『ゴジラ-1.0』
国産ゴジラ映画を作る上で目の上の瘤となるのは、前述のゴジラ出現率の高さに加えて、レジェンダリー・ピクチャーズによるハリウッド版『ゴジラ』が2、3年間隔で新作を出してくる状況にあることだろう(次回作は2024年公開の『Godzilla x Kong: The New Empire(原題)』)。本家の日本版ゴジラは契約上、レジェンダリー版が公開されない年に製作されることになっており、ゴジラ生誕70周年を謳いながら、2024年に公開されない理由もそこにあるようだ。 それにしても、今、日本でゴジラを作るということは、レジェンダリー版もさることながら、前作の『シン・ゴジラ』が興行、評価の両面で、従来のシリーズを大きく逸脱する展開を見せたことも無視するわけにはいかない。興行収入82億5千万円を記録し、これまでゴジラ映画に見向きもしなかった各映画賞が、『シン・ゴジラ』にこぞって賞を与えたのだから、まさに規格外のゴジラ映画だった。 社会現象化した『シン・ゴジラ』の後、他社の国産怪獣映画企画が中止になったという噂を耳にしたが、事態はゴジラも同様だったようだ。『ゴジラ-1.0』の劇場パンフレットで東宝のプロデューサー・山田兼司が「東宝社内で新たな実写ゴジラ映画の企画がいくつも検討されました。しかし『シン・ゴジラ』に続くに相応しいと思える企画をなかなか生み出すことができませんでした」と語るように、あの作品は国産ゴジラの可能性を拡げると同時に、極度に敷居を高くしてしまった感は否めない。 他ならぬ庵野自身も、その被害を受けている。国産ゴジラの新作が公開可能な2018年を想定して、樋口真嗣の監督作として『シン・ゴジラの逆襲』というタイトル案の企画書を書いていた。『シン・ウルトラマン デザインワークス』で語られるところでは、「時間も製作費もあまり掛からないアイデアでまとめた、『シン・ゴジラ』が苦手な人達向けにしたラフプロット」で、「東宝チャンピオンまつり的な怪獣対決物」だったという。「東宝チャンピオンまつり」とは、1960年代末から70年代後半にかけて、子どもの長期休暇に合わせて、アニメや特撮映画を組み合わせて上映するプログラムで、ゴジラも低予算で新作が作られたり、過去作品を改題再編集して上映されていた。 そうしたテイストが加味されたとおぼしき『シン・ゴジラの逆襲』の企画書、ラフプロット、イメージビジュアルを、庵野は東宝の担当者に渡したものの、「時期尚早等様々な理由からその話はその時は流れ」たという。東宝側としては『シン・ゴジラ』からの急速な路線転換は受け入れ難かったようだ。 こうした状況の中で作られる国産ゴジラの新作は、レジェンダリー版に引けを取らない質のVFXと、「『シン・ゴジラ』に続くに相応しい」内容を伴う企画でなければならない。この2つを同時に担えるのはVXFに精通した映画監督である山崎貴の登板は必然ということになる。何より、すでに『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年)の冒頭にゴジラを登場させ、西武園ゆうえんちのアトラクション『ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦』でゴジラを手がけているだけに、その手腕が充分に期待できることは疑いようがない。