危険ドラッグで暴走の車が衝突、25歳の息子失った父親の10年 「歴史繰り返してしまう」大麻グミ問題などに危機感
危険ドラッグ販売店、昨年時点で全国に300店
国の危険ドラッグ規制を巡っては2014年12月、販売停止命令の効力を全国一律に広域化することなどを盛った医薬品医療機器法が施行された。厚労省によると、14年3月に全国に215あった危険ドラッグ販売店は15年7月にいったんは根絶された。
だが、近年再び「大麻グミ」など危険ドラッグによる健康被害が社会問題化している。厚労省などの調査では昨年8月時点で危険ドラッグ販売店が全国で300店ほど確認された。大麻の摘発者も23年は6432人で、統計のある1958年以降で過去最多に。哲義さんは「SNS(交流サイト)が普及した時代だからこそ幼い頃からしっかりと危険を伝えなければならない。負の歴史が繰り返されてしまう」と危機感を強める。
刑事裁判以降、少年からの謝罪はなし
哲義さんは遺族として民事訴訟の長期化といった問題にも直面し、21年には県犯罪被害者等支援条例を検討する委員にも選ばれた。認定NPO法人長野犯罪被害者支援センター理事も務める。「県内全77市町村の条例制定」を目指し、これまでに延べ32市町村を訪ねて要望を伝えた。「息の長い支援が必要だ」と感じている。
関係者によると、事件を起こした少年は現在も服役中だ。同乗していた男性は既に社会復帰している。だが、ともに刑事裁判以降の謝罪はない。少年の親族は取材に「特に話すことはない。申し訳なく思っている」とだけ答えた。少年にも手紙で心境を尋ねたが、返信はなかった。
育也さんが生まれた時に庭に植えたハナミズキは今年も青々とした葉を風に揺らしている。育也さんの部屋は当時のままだ。「同じ思いはもう誰にもしてほしくない。これからもやれることをやろうと思う」。哲義さんが自身の役目をかみしめるように言った。 (小泉朋大、樋口佳純)
【中野市の危険ドラッグ多重事故】 中野市草間の県道で2014年5月14日午前11時50分ごろ、当時19歳の少年が危険ドラッグを吸って正常な操作が困難な状態で乗用車を運転。反対車線に進入して対向車2台などと衝突し、運転していた中野消防署(中野市)の消防士川上育也さんを死亡させ、他の2人に重軽傷を負わせた。元少年は危険運転致死傷罪などに問われ、懲役13年とした一審長野地裁判決が確定。同乗していた男=当時(21)=は、元少年が危険ドラッグを吸引すると認識した上で運転を依頼した危険運転致死傷ほう助罪などで懲役6年の判決を受けた。