400種超を見つけた“新種ハンター” 「今でもドキドキ」少年のような探究心 #令和に働く
3~4カ月で発表までこぎ着けるときもあれば、何十年とかかる場合もある。足の関節に毛の1本1本、爪先の向きにひげの長さ…。肉眼では気付かないような特徴をひとつひとつ観察していく。「写真だといらない情報も入ってしまう」と、手書きでの記録が基本という地道な作業が続く。
県立中央博物館の収蔵庫に保管されている甲殻類サンプルのうち、新種とされたものは300種以上だ。自身で採取したもののほか、国内外の研究機関などからも依頼があり、自身の中で優先度を付けながら取り組む。ふたに赤色の印が付いている物は新種の可能性があるもので、いくつものサンプルに付けられている。
「小学生の頃と変わらない」
地元では食べられていたものが実は新種だったーと話題になり「ふるさと納税」の返礼品に採用されたことも。新種だと思い共同で研究を進めていた甲殻類が、絶滅したと考えられていた生き物だと分かった時は、さまざまなメディアに取り上げられた。最近では、一般の人も遊べる潮だまりから採集したエビが新種だと突き止めるなどロマンがある仕事。海の生き物の調査過程で新種が見つかることも多く、いつしかその実績から「新種ハンター」と呼ばれるようになった。
1993年に県立中央博物館にやってきてからは、公務員として展示の仕事などに追われながら「新種発見」への作業を黙々とこなす。時には電車の中でも論文を執筆し、1年間で10本ほど書き上げる。こうした努力の積み重ねで、新種の発見は400件を超える。論文の被引用回数などに基づいた、スタンフォード大学による全世界対象の研究者ランキング調査で「世界トップ2%科学者ランキング」にランクインしたこともある。 多数の標本採集と、忍耐強い観察、きめ細かい記録が求められる、気が遠くなるような作業が多い仕事だが「ほら、このエビはね水の中でこうやって動いて大きな音を出す。カメハメ波みたいでしょう」と話す表情は少年のようだ。「見たことがないものを見つけると今でもドキドキ、ワクワクする。それが楽しくて、小学生の頃から変わっていない」と笑う。 今年の4月からは人事異動により、同館の地域連携課長に就任。巡回・出張展示の調整、大学や博物館といった他機関との連携などの仕事が中心となるが、自身の研究は続けていくつもりだ。「まだまだたくさんの未記載種がいて、解決しなければならない分類学的な問題が山積み。できるところから辛抱強く進めていきたい」。赤い印が付いたサンプルが、名の付く日を待っている。 ※この記事は千葉日報とYahoo!ニュースによる共同連携企画です