家屋のみ込むメコン川 砂採掘で浸食進むデルタ地帯 ベトナム
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【3月10日 AFP】ベトナムを流れるメコン(Mekong)川のデルタ地域で、ある夏の朝、レ・ティホン・マイさん(46)の自宅が川の浸食を受けて倒壊した。メコン川では、砂の採掘や水力発電ダムによる川岸の浸食によって数万人の生活が脅かされている。 コンクリートに必要な砂は、世界で水に次いで自然界から採取されている資源であり、国連環境計画(UNEP)によると、過去20年間でその使用量は3倍に増加した。 メコン川が南シナ海(South China Sea)に注ぐベトナムの米作地帯であるデルタ地域では、約10年後には砂が枯渇すると予測されている。しかし、既に生活に大きな影響を与え、地元経済に損害を与えている。 マイさんはAFPに対し、カントー(Can Tho)市郊外にある自宅に併設する小さなレストランを含む「すべてを失った」と語った。 夜に寝ていると「大きな音が聞こえ、急いで外に出たら、何もかもがなくなっていた」と振り返った。 過去20年間にわたり、メコン川上流の水力発電ダムにより、デルタに流れ込む砂の量は大幅に減少した。また、今年初めに発表された世界自然保護基金(WWF)の報告によれば、ベトナムの建設ブームを支えるための砂の採掘も資源枯渇に拍車を掛けている。 2018年に公表されたメコン川委員会の研究は、2040年までに堆積物の量が最大97%減少する可能性があると指摘している。砂が減少すると、川の流れと川岸に当たるスピードが速くなり、浸食が加速する。 政府の統計によれば、2016年から23年8月までの間に、メコンデルタ地域の少なくとも750キロメートルの川岸と、2000軒近い家屋が川に沈んだ。 ■最後の砂粒 メコン川では、掘削機や船が昼夜を問わず作業し、川床から砂を掘り起こしている。 ベトナム運輸省によれば、デルタ地域は25年までに六つの主要な幹線道を建設するために5400万立方メートルの砂が必要だ。ところが、メコン川はその半分以下しか供給できないという。 当局が海砂や隣国カンボジアからの砂の輸入など代替案を検討する中、重要なプロジェクトは既に遅延が生じている。カントーで砂の採取に従事する労働者の一人はAFPに対し、「今年の初めから十分な砂がないため、あまり仕事がない」と述べた。 ベトナムは2017年に砂の輸出を全面的に禁止した。しかし、メコン川の専門家グエン・フー・ティエン氏によると、国内需要が活発なため、川下に流れる量を上回る砂が依然として採掘されている。WWFが主体となった研究によると、現在の年間3500~5500万立方メートルの採取が続けられれば、2035年までには砂が枯渇する可能性がある。 ティエン氏は「これらが私たちが採掘している最後の砂粒だ」と警告した。 ■「逃げ場がない」 マイさんの倒壊した自宅から約60キロ離れたハウザン(Hau Giang)省。ディエップ・ティ・ルアさん(49)は夜中に目を覚まし、自宅の庭が水にのみ込まれるのを目の当たりにした。 「大きな音を聞いてベッドから飛び起きた。地面が揺れるのを感じた。とても怖かった」とルアさんはAFPに語った。川は数十年かけて数十メートル広がったという。 国営メディアによると、政府はメコンデルタの浸食を防ぐために190のプロジェクトに約4億7000万ドル(約690億円)以上を投じてきた。しかし、ティエン氏は「多くの高額な構造物が川に崩れ落ちてきた」と明らかにした。 ティエン氏は、今世紀末までにデルタの半分が消失する恐れがあると警告する。「その後、デルタは完全に消え、私たちは地図や地理の教科書を書き直さなければならないだろう」 防災当局によれば、約2万世帯が再定住する必要がある。WWFは、さらに深刻な結果を予測しており、50万人が家を失う可能性があると指摘している。 ハウザン省の当局者の一人は「再定住には高額の費用を要し、捻出するのは事実上不可能」との認識を示し、解決策は見当たらないと語った。 マイさんやルアさんのような住民は、恐怖に押しつぶされている。「川が浸食してきて以来、よく眠れない。逃げる場所がないという現実をただ受け入れるしかない」とマイさんは話した。 映像は2023年10月撮影。(c)AFPBB News