世界に負けない日本製を作る 元体育教師が製造経験ゼロからトレーニングマシンの開発に人生を賭けた情熱の軌跡
オリジナルのトレーニングマシンの製造を手がけ、今や全国に顧客を持つ『株式会社フィットプランナーズ』代表取締役、納戸習之(のと・しゅうし/58)さん。執念と汗と涙で作り上げたマシン誕生秘話と決意の履歴に迫った。 【写真】納戸習之さんの手掛けるトレーニングマシン
「僕は元々、体育教師で陸上競技の顧問をしており、なかでもウエイトトレーニングを重視していました。ですが、当初はダンベルとベンチプレス台が一台あるだけで、とても環境として充分とは言えませんでした。強豪校でない学校は、予算の関係でそういうことも多いです。10年かけてマシンを増設していくなかで、『もっと安価で安全、日本人の体型に合うマシンがあったらいいのに』、『もっと良い環境を教え子に与えたい』という思いが強くなっていきました」 “価格面と安全性の両立”。既存のマシンでは補いきれない部分があることを肌で感じた納戸さんは、一身上の都合で学校を退職。トレーナー業の傍ら、自身の中で培ってきたトレーニングノウハウ・理論を形にするべく立ち上がった。しかし、なにもかもが一からの挑戦は困難を極めた。 「製造企業に片っぱしから企画を持ち込んだのですが、ロットが少なすぎる、予算超過などの理由でことごとく断られました。そうして退職金も尽きそうになったとき、唯一地元の工場が引き受けてくれたんですね。そこで第一号を作った際に、『発注するのは予算がかかりすぎるから、自分で覚えて作った方がいい。工場と従業員を貸すから」と提案をいただいて、図面から溶接まで、すべて一から覚えさせてもらいました」 やっと完成を見せたマシン。しかし今度は販路の問題が立ちはだかる。 「海外製のマシンが主流のなか、名もない一工場が乗り込んでいったわけですから、営業は地道を極めました」 「でも、性能には自信があった。知ってくれさえすれば興味を持つ人が現れると信じて、ウエイトトレーニング専門雑誌『IRONMAN』に広告を出したのが世間に認知されたきっかけです。トレーニングを本気でやっている方々の目に触れたことで興味を持ってくださる方が増え、そこからリピートや紹介などで全国に広がっていきました」 小型で安価、安全性に優れたマシンは徐々に販路を拡大、「四畳半に置けるシリーズ」は特に好評を博し、小規模ジムやホームジムを中心に顧客を獲得していった。自社マシンの特性について、納戸さんは熱く語る。 「僕はトレーナーとして30年やってきた傍ら、健康運動指導士、整体療術師であり、運動生理学などを専攻で学んできたため、“日本人の人体構造に基づいた最適な刺激を与えるためには”という視点でマシンを作っています。海外製のマシンには体格自体が合わない方や、さらに自身に適したものを深く求めたいという方に好評をいただいています。顧客の意見を真摯に受け止めて改良を繰り返し続けており、リピートしていただく率も非常に高いです」 その不屈の挑戦を支えた源泉は、“YAZAWAマインド”だという。 「僕は矢沢永吉さんの40年来のファンで、「先の見えない暗闇の中でこそ、諦めずに己を信じて進み続ける」というYAZAWAマインドでやってきました。僕は昔からそうなんですが、本当にもうダメかと思ったときには必ず手が差し伸べられるんです。人運に恵まれた理由のひとつとして、壮絶な熱意が伝わって奇跡を呼び寄せていると信じています(笑)」 今後の展望について、納戸さんは屈託のない情熱の瞳で語った。 「全国のスポーツ校、スポーツ施設の片隅に一台でもいいからあって、愛用してもらえるのが夢です。あとは種目名になりたいですね。うちのマシンでしか得られない効きを感じてもらった人が、たとえば“チェストプレス”でなく“いぶき”何セットとトレーニングノートに書く場面などを考えると心が躍ります。そういう存在になれるように、日々、研究と試行錯誤を繰り返し邁進していきます」
取材:にしかわ花