『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』が開幕
名作ミュージカル『ハミルトン』を生んだリン=マニュエル・ミランダの処女作『イン・ザ・ハイツ』。2008年度トニー賞最優秀作品賞を含む4部門での受賞をはじめとする数々の演劇賞を受賞し、2009年度グラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞。2021年には映画化もされ、大きな話題を呼んだ。 【動画】『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』2024年公演 ダイジェスト映像 日本では2014年に初演を行い、2021年に再演。今回が3回目の上演となる。演出・振付を初演から引き続きTETSUHARUが担当するのに加え、Micro(Def Tech)と平間壮一がWキャストでウスナビを演じる。さらに、松下優也、sara、豊原江理佳、有馬爽人、エリアンナ、ダンドイ舞莉花、MARU、KAITA、戸井勝海、彩吹真央、田中利花といった実力派が集結した。 2024年9月22日(土) に幕を開けた『イン・ザ・ハイツ』再々演の様子をレポートしよう。 物語は店の壁にグラフィティを描いているグラフィティ・ピート(KAITA)をウスナビ(Micro/平間壮一)が叱りつけるという日常からスタートする。ウスナビが観客に向かってワシントンハイツとそこで暮らす人々を紹介する曲から始まるが、Microが演じるウスナビはなんといっても明瞭でグルーヴ感のあるラップが魅力的。聞き取ろうとしなくても歌詞が自然と入ってくる、安定感抜群なストーリーテラーだ。想い人であるヴァネッサ(豊原江理佳)になかなかアプローチできない情けなさもありつつ、歌唱やダンスから伝わるギラついた雰囲気、バイタリティあふれる佇まいが印象的。 平間はヒップホップと抑揚のある芝居を掛け合わせ、表情豊かなウスナビを好演。愛嬌たっぷりな人のいい笑顔、深みのある歌唱やキレのいいダンスのギャップで惹きつける様子が見事だ。いとこのソニー(有馬爽人)との気のおけないやり取りも微笑ましい。友人たちやソニー、育ての親であるアブエラ(田中利花)との関係性も、WキャストであるMicroと平間の芝居やキャラクターによって少しずつ違っており、それぞれのアプローチを見比べる面白さもある。 ウスナビの幼馴染で、タクシー会社で働くベニーを演じる松下は、メロディアスでビート感のあるラップと勝気な雰囲気が魅力。それぞれのウスナビに対して見せる悪友感、ボスの娘・ニーナの前で見せる少年のような表情が可愛らしい。 豊原は、勝気で凛としたヴァネッサを非常にチャーミングに演じる。彼女の華やかさと同時に、ワシントンハイツを出て現状を変えたいという思い、抱える苦しみや孤独もしっかりと見せ、目を離せないヒロインを作り上げていた。 saraが演じるニーナは、聡明で真面目なワシントンハイツの“希望の星”。ある秘密を抱えて街に戻ってきた彼女の心の揺れが伝わる歌唱や表情に共感を覚える方も多いのではないだろうか。 進展しそうでしないウスナビとヴァネッサを応援したり、ベニーとニーナの前にある様々な障害にハラハラしたり。それぞれの恋の行方はもちろん、街の人々の日常も見どころと聞き応えたっぷりだ。 街の人々から慕われているアブエラやニーナの父・ケヴィン(戸井勝海)が人生を振り返る楽曲は若者たちのナンバーとはまた違う深みがあり、美容室のオーナー・ダニエラ(エリアンナ)と従業員のカーラ(ダンドイ舞莉花)は明るくお茶目なキャラクターとパワフルなオーラで盛り上げる。芯の強さと優しさを持つニーナの母・カミラ(彩吹真央)、シーンの切り替わりに登場するピラグア屋(MARU)の歌唱も印象的で、キラーチューン揃いのミュージカルだと言えるだろう。 様々な人種が暮らすワシントンハイツの賑やかさを表すように、いくつものメロディが重なる場面も多いが、それぞれが主張しつつ調和し、厚みのある音で響くのが心地よい。プリンシパル・アンサンブルともに高い歌唱力を発揮し、迫力あるハーモニーで会場全体を包み込んでいる。 貧困や格差が描かれていたり、登場人物が悩みや壁にぶつかったりとシリアスなシーンもあるが、辛さや苦しみもエネルギーに変えていくようなパワーが眩しく感じられる。 さらに、カラフルでポップな衣装、ヒップホップやラテンの要素を取り入れたダンスによる視覚的な楽しさも満点。ウスナビの店の壁やシャッターに描かれたグラフィティ、家の内装からも街の雰囲気や彼らの経済状況がわかるセットや美術も見事だ。街灯や消火栓、橋など、曲中で印象的に登場するモチーフから小物まで丁寧に作り込まれており、どこに目を向けても楽しい。見ているうちに自然とワシントンハイツに入り込み、街の一員になったような気分で熱中できる作品ではないだろうか。 国や人種、性別や年齢も様々な人々が「ホーム」を探し、迷いながらも進んでいく本作。見ている側も自分の居場所や夢、友人や家族との絆について考え、再発見できるようなパワーに満ちた作品を、ぜひ劇場で体感してほしい。 本作は10月6日(日) まで東京・天王洲銀河劇場で上演。2024年10月12日(土)~13日(日) には京都劇場、10月19日(土)・20日(日) には名古屋・Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール、10月26日(土) には神奈川・大和市文化創造拠点シリウス 1階芸術文化ホールメインホールでも公演が行われる。 取材・文:吉田沙奈 <公演情報> ブロードウェイミュージカル『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』 公演期間:2024年9月22日(日・祝)~10月6日(日) 会場:東京・天王洲 銀河劇場