本当に閉経中央値は「52.1歳まで遅延」しているのか?いま「確実にわかっていること」「いないこと」を整理すると
女性の閉経中央値は何歳なのかを決定するには? 簡単そうで難しい「方法論的な限界」
――では①~⑥、6つの課題点について順番にお聞かせください。まず①は、簡単に言うと「検査が足りないのでは」という課題ですね? はい。原著は英語ですので、以下おおまかに日本語に訳した状態で抜粋します。「①女性の早期閉経(POF)を診断するためには、血清卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度の測定と婦人科的検査を実施すべきである」。 つまり早期閉経(POF)の診断のためには卵胞刺激ホルモン(FSH)を測定しないとならないでしょう?という話ですが、今回の研究では採血データが皆無なのです。FSHも測定していません。 以上は2012年にこの論文が報告された当時の知見のレベルですが、最近では女性が最終月経(final menstrual period・FMP)に近づくにつれて起きるホルモン変化についてはもっと多くのことが明らかにされています。参考までに、現在の知見をご紹介しておきましょう。 まず、卵巣予備能検査抗ミューラー管ホルモン(AMH)は25歳前後でピークに達し、その後、生殖年代では加齢に伴い持続的に減少することが判明しています。このAMHは前駆卵胞に由来する残りの卵胞のプール状態を反映しているので、FMPまでの時間指標として有用であるとされています*4。ちょっと難しい専門用語で説明しましたが、つまり、AMHの数値によって、閉経までの残り時間をおおまかに推定可能であるということです。 これから成長する卵胞*5によって産生される糖タンパク質ホルモンであるインヒビンBのレベルは閉経移行期の入口の段階で低くなり*6、下垂体による FSH 産生を抑制するネガティブフィードバックに関与します*7。これらのインヒビンBやFSHの変化は月経周期ごとの一貫性もなく、おそらく毎月の成長する卵胞プールの大きさによって微妙に変化すると言われています。そして、この段階ではFSHは正常ないしは断続的に上昇し、月経周期は正常または僅かに不規則であると言います*8。つまり、閉経移行期の入口では次に排卵される卵胞のサイズによってFSH産生が左右されてゆらぎ、FSH値は少しずつ上がりながら月経周期は少しずつ変化します。 これらが現在わかっている「最終月経までに起きること」です。 ――難しい専門解説ですが、つまりは「10年前には閉経までの経緯の多くが未解明だったが、数値で閉経時期を見通せるようになり、またなぜFSH値がゆらぐのかもわかってきた」ということですね。つづいて②は「そもそもの自称閉経年齢があっているのかどうか」ということですね。参加者は65歳までなので、中には閉経後10年以上たっている人もいます。閉経をはっきりと覚えていない人も結構いるので、自己申告で大丈夫かと。 簡単に言うとそういうことです。訳すると「②個々の女性による閉経年齢の回顧は、横断的な性質上、本研究の限界である」。閉経の解析には、JNHSのベースライン調査時に40歳以上であった閉経前後の女性24,152人のデータを用いていますが、これらの記述が正確なのか。 もう1つ重要なのは、いつ閉経したかわかりにくいケースが多々あることです。 Seltzer VL(1990)が500人の閉経への移行を調べたデータ*9によれば、いちばん多いのは「月経血量が減少し、間隔がまばらになって閉経に至る」ケースで70%。次は「不正出血や過多月経が起きて閉経に至る」ケース18%。3つめは「ある日突然月経が来なくなった」ケース12%。3つめのケースならばいつ閉経したかを記憶しやすいと思いますが、一番多いケースではそれがいつだったかの厳密な見極めが難しいと思います。 ――次の③は少々、根本的な内容です。「看護師さんたちの集団は特殊すぎて一般論にできないんじゃないか」ということであっていますか? そうですね。抜粋すると、「③本研究の母集団は、学歴や社会経済的指標がほぼ同じ女性で構成されているため、学歴やその他の社会経済的指標を危険因子として含めなかった。本研究の母集団は同じような教育的、社会経済的背景を持つ女性で構成されているためである。したがって、これらの因子を除いた結果は、特殊な集団の結果であって、日本人女性集団全体の結果を代表するものではない可能性がある」。ここらへんをどのように解釈するかは難しいですね。 前編では方法論的限界のうち3つをご解説いただきました。後編では残る3つと、今後期待できるこの分野の進捗、そして課題をお聞かせいただきます。