日本の防衛費、GDPの3%を要求?第2次トランプ政権でどうなる日米関係
■ どうなる関税、石破政権は交渉力を発揮できるか 一方で、トランプ氏は1期目とはやや違った姿勢を取るのではないかという見方もあります。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)からの離脱もほのめかすなど、米国の負担が大きい多国間連携に消極的です。しかし、トランプ前政権の高官は2024年6月、トランプ氏が再任した場合でも、日米韓3カ国の連携は維持するだろうとの考えを日本側に伝えています。 今回の米大統領選に際しての共和党の公約には、同盟国に対し応分の防衛負担を求める一方で、アジア太平洋地域においては国々の主権と独立を擁護し、平和と通商を通じた平和の構築を目指すという考えが示されています。地域によって違った対応を取る可能性は残っています。 東アジア地域の安全保障環境について情報交換を密にし、米国が極端な孤立主義に陥らないよう対話を重ねることが日本側の大きな課題です。 そうは言っても、経済関係では対米交渉が困難を極めるでしょう。特に難航しそうなのが通商問題です。 トランプ氏は前回大統領の就任時、2019年に日米貿易協定を締結しました。米側は日本の自動車に対する関税撤廃を見送る一方で、牛肉など米国の農産物に関する日本の関税引き下げを約束させ、日本国内からは「不平等条約ではないか」との批判も上がりました。 それでも米国の対日貿易赤字は縮小していません。2023年の実績で700億ドル(約10兆5000億円)を超え、拡大し続けているのです。このため、トランプ氏は対日貿易赤字の縮小を目指してさらなる強硬策に出ることが予想されているのです。 トランプ氏は外国からの輸入品に10~20%の「ユニバーサル・ベースライン関税」を導入するという政策を掲げています。日本でも自動車業界などが強い影響を受けるでしょう。 そもそも、米国が輸入品の関税を引き上げ、米国内の物価が高騰すれば、米金融当局が金利を引き上げてインフレ抑制に動くことが想定されます。そうすれば、金利の低い日本の円を売って金利の高いドルを買う傾向が強まり、円安が進む可能性が大きくなります。すでに、選挙戦の最終盤、市場ではトランプ氏の当選確実を見越して、円安が進みました。トランプ政権の発足は日本にとって輸出産業に有利な一方、輸入品の高騰による物価高につながる可能性が強く、注意が必要です。 海外からはどのように見えるのでしょう。日本在住のジャーナリストでサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙のアントニー・ローリー記者は「日米の金利差は注視する必要があるが、急激ではなく徐々に縮小するだろう」と見ています。 ただ、トランプ氏の政策をよく見ると、交渉によって日本の条件を有利にする余地は残っているようにも見えます。 トランプ氏は自身の2期目を見据えて策定した「アジェンダ47」という政策集の中で、米国製品に関税を課す国に対しては米国も同等の関税で対抗する「トランプ互恵通商法」の制定を提唱しました。そこには「公正を期すために、相手国が関税引き下げに合意すれば、米国も関税引き下げに応じる」と書かれています。つまり交渉次第で関税は上下させるという基本的考えを示していると言えるでしょう。 国益をかけた外交交渉の場では、双方の立場を踏まえた緻密な合意形成が必要になります。首脳間の個人的関係が良好であればそれに越したことはありませんが、戦略なき首脳の友好関係は必ずしもプラスにはならないのです。 西村 卓也(にしむら・たくや) フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。 フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
西村 卓也/フロントラインプレス