“ダウンを超える” ミズノの機能性中綿「テックフィルサーモブレス」開発の狙い
ミズノは「ダウンを超える」をキーワードに掲げ、機能性中綿「テックフィルサーモブレス」の開発に成功。今後、防寒スポーツアウターだけではなく、寝具への活用も視野に入れる。同素材の開発の裏側に迫った。(文・南充浩) 【画像】中身は? 積層した中綿
同社が「ダウンを超える」を掲げる理由としては様々あるが、まずは動物愛護という観点がある。次にダウンには「水に濡れると乾くまで暖かさがない」という最大の欠点がある。冬のスポーツ、アウトドア活動時には開始当初は寒くても身体を動かしているうちに体が温まり、発汗することがままある。その場合、ダウンだと汗を吸ってそのまま保温力が無くなってしまう。この欠点を克服するための新機能素材として開発に取り組んだ。 テックフィルサーモブレスでは、1993年にミズノが独自に開発した吸水発熱機能を持つ合成繊維「サーモブレス繊維」に水を吸わないようにするための疎水加工を後加工で施したものと、バネ状の形状をした特殊なポリエステル糸をブレンドして薄い不織布の中綿にすることで、水に濡れても保温性・発熱性を維持することに成功。乾燥にかかる時間もダウンよりも短くて済む。この薄いシート状の中綿を何層にも重ねることで、デッドエアと呼ばれる空気の層ができ、外気を遮断することで高い保温力が実現される。初年度のスポーツ防寒アウターはこの機能性中綿を14層重ねている。 機能性中綿の開発はここ10年間値上がりし続けるダウン原料への対応策の一環でもあると同時に、供給量もダウンに比べて安定しやすいという点にも強みがある。近年顕著となっている暖冬傾向への対策についても、同社のグローバルアパレルプロダクト本部コンペティションスポーツ企画・ソーシング統括部の松岡俊祐部長は「テックフィルサーモブレスの中綿の積層数を変えることで対応が可能。今回はシート状の中綿を14層重ねた防寒アウターだが、例えばこれを5層とか7層くらいの薄さにすることで暖冬向けの防寒アウターにもなり得るだろう」との見方を示した。 今秋冬向けの防寒アウターは「テックフィルサーモブレスインサレーテッドコート」(5万600円、10月上旬販売開始予定)、「テックフィルブレスサーモコート」(3万4100円、10月上旬販売開始予定)、ブルゾン型の「テックフィルサーモグラウンドコート」(2万4200円、9月上旬から順次販売)の3型で、いずれも中綿はポリエステル83%、ブレスサーモ17%の配合。ウェア類の販路は専門店や直営店、直営ECサイトを予定。クラウドファンディングサービス「マクアケ(Makuake)」では9月25日から寝具の掛け布団(3万7400円)の販売をスタートしている。 テックフィルサーモブレス関連商品の売上高は、初年度である2024年秋冬は2億8000万円を目標に掲げ、2027年には10億円を見込んでいる。松岡部長は「今後生産数量が増えれば製造コストが引き下げられて、もっと割安な価格で提供することも可能になり、ダウン内蔵アイテムよりも一段抑えた価格で販売できるようになるだろう」と抱負を語った。 南 充浩 ファッションライター 繊維業界新聞記者としてジーンズ業界を、紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを担当。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務した。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。