11月歌舞伎座『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』でも活躍!立師の山崎咲十郎さんと尾上菊次さんにインタビュー
「落ちるの一秒、ハマると一生」と言われる歌舞伎沼。その深淵をのぞき、沼への入り方を指南するこの連載。今月ご紹介するのは、俳優として舞台に立ちながら立師として活躍する山崎咲十郎さんと尾上菊次さんです。立師とは歌舞伎独特のアクション、立廻りを考えて実際に演じる俳優へ付けるお仕事。現在、歌舞伎座で上演中の『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』も二人が立廻りを作っています。今回は、そんな二人の稽古場にバイラ歌舞伎部が潜入!! どんなふうにして、歌舞伎の立廻りはできていくのか、たっぷりお話を聞きました! 【写真】山崎咲十郎さん&尾上菊次さんの決めポーズ
(左)山崎咲十郎●やまざきさくじゅうろう 1975年生まれ。河原崎権十郎一門。1992年十七代目市村羽左衛門に入門し初舞台を踏む。 (右)尾上菊次●おのえきくじ 1986年生まれ。尾上菊五郎一門。2004年国立劇場第17期歌舞伎俳優研修修了。 二人とも、菊五郎劇団の立廻りで活躍。立師を勤める。最近では咲十郎、菊次、中村獅一の三人で『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』の立師を勤めた。
■インドの神話が歌舞伎に。武器にはモーニングスターも!?
まんぼう部長 今日は、歌舞伎俳優であり、立師の山崎咲十郎さんと尾上菊次さんの登場です。11月歌舞伎座で上演中の『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』の立廻りを作っているところにお邪魔しました! ばったり小僧 普段は見られないところを拝見できて感動です! 迫力があってかっこよかったですね~♪ 「立廻り」というのは、いわゆるアクションのことですよね。 咲十郎 そうですね。映画などでの“殺陣”(タテ)とは違って、歌舞伎の立廻りは、リアルではなくて様式的で、踊りに近いようなものです。その振り、立廻りにおける「手」(動き)を付けるのが、私たち、立師の仕事です。 菊次 古典歌舞伎の場合、立廻りの手はだいたい決まっていますけれど、新作歌舞伎の場合は、一から考えることになります。 部長 今回の『マハーバーラタ戦記』は、6年前に初演された作品の再演で、前回もお二人で立廻りを考えられたとか。インドのお話ということで、やっぱり立廻りにもインドらしさを取り入れたりしたんでしょうか? 咲十郎 はい。まず大きく違うのは、闘うときの武器ですね。たとえば今回は古典の歌舞伎には出てこない「盾」が出てくるので、盾を使う立廻りは、映画なんかを観て研究したり。 また日本の刀は、片刃で曲刀(片側に歯があり、反りがついている)ですけれど、この作品で使う「剣」は、両刃で直刀(両方に刃があり、まっすぐな剣)なので使い方も変わってきます。 菊次 普段の歌舞伎には絶対出てこない「モーニングスター」という武器も出てきます。トゲトゲの球体がこん棒の先についているようなもので、6年前は、色々な資料を見ながら、 「この役には、この武器があっているな」ということで、モーニングスターを選びました。 小僧 あのイガイガの当たるとめっちゃ痛そうな武器ですね!? あんなワイルドなものが歌舞伎の舞台に!? 咲十郎 新作を作るときは、とにかく色々な映像を参考にします。映画『トロイ』でギリシャ系の戦士の戦い方を研究したりして、使えるところは使おうと……と言いつつ、実際に使える手はなかなかないのですけれどね(笑)。 部長 今回の舞台は、前回の立廻りとは、また違うものになるんですか? 咲十郎 そうですね。まず、その役をなさる方によって変わってくるというのがあります。たとえば、先ほど考えていたのは、(尾上)菊之助さんと(中村)萬太郎さんが闘う場面の立廻りだったのですが、前回の舞台では、菊之助さんと(坂東)亀蔵さんがなさっていました。そのときの映像を見ると、多少、二人で自分たちが動きやすいように変えていたりする部分もあるのです。稽古着で動くのと、鎧を着て動くのでは勝手が違うという事がありました。 それをあらためて再現した時に「この動きより、こっちのほうが動きやすいかも」というところがあれば、もう一回、整理して、今度なさる方々にお渡しするという感じです。 菊次 大勢出てくるシーンは、人数が変われば動きや配置も変わってきますし、前回の映像を見て「ちょっと変えたいね」という部分も出てきたので、そこを新たに考えたりしました。