中江有里さん、阪神の巻き返しを祈る気持ち「一つの負けが、めちゃくちゃ重くのしかかってくる」
読書好きで知られる俳優の中江有里さんが、日々のできごとや過去の思い出を、1冊の本とともにふり返る連載エッセイ。9月に入って息を吹き返したように連勝が続いた阪神タイガース。首位・巨人を追いかける立場ですが、山本周五郎の『ひとごろし』(新潮文庫)の主人公・六兵衛のような、劣勢からの巻き返しに望みを託しています。 【写真】新幹線の車内で「風を送る」中江有里さん
去年の今日はAREした日。そんな記念日に…
2024年9月14日午後2時、わたしは東京の書店にいた。 紀伊國屋新宿本店で新刊『愛するということは』の発売記念トーク&サイン会が開催される同時刻、ここから500キロ以上離れた阪神甲子園球場では阪神×広島の試合が始まる。 心の中で勝利を祈りつつ、わたしは壇上へ上った。 約2時間後、サイン会を終えてスマホを取り出すと、0-3で阪神が負けている。 去年の今日はAREした日。そんな記念日に……さっきまでサイン会で高揚していたのに泣きそうだ。 気分を変えようと、イベントに来てくれた友人(巨人ファン)とお茶をしながら、努めて野球以外の雑談をして、小一時間が過ぎた。 おそるおそる試合結果を見ると3-3に追いついている! 友人に了解を得て、スマホで試合中継の動画を見始めた。ちょうど9回裏、中野拓夢選手が打席に立った。 2アウト二・三塁の3球目。真ん中高めに浮いた変化球を、狙い澄ましてセンター返し。なんとサヨナラヒットの劇的勝利。 やっぱり阪神強いやん!
0勝143敗からのスタート
8月に首位から5ゲーム差をつけられ3位だったときは「良い結果もそうでない結果も、悲しみも受け止める」と半ば覚悟を決めていた。 しかし9月に入り、連勝を重ねた阪神は2位に浮上。残り10試合を切った時点で首位・巨人を僅差で追っている。 去年とは全く違うペナントレース。勝つ喜びと負ける苦しみに心は動かされっぱなしだ。 どれだけ強くても負けないチームはない。そうわかっていても、負けた日は落ち込んでしまう。 「あそこで打っていたら」「エラーを出さなければ」「打たれなかったら」 タラレバを繰り返しても、時は戻らない。気分を変えて次の試合に向けて切り替えていく。明けない夜はないのだ。 しかし、しかしだ。もう残り試合は少ない。 一つの負けが、めちゃくちゃ重くのしかかってくる。 こんな時、私はファンクラブ向けの会報誌にあった岡田監督の言葉を思いかえす。 (0勝143敗からのスタートと思ってるから) 究極のマイナス思考。昨年日本一になったチームだというのに、控えめすぎやしないか。 言葉とは裏腹に、この9月の阪神の闘い方を見れば、負ける気などないのは自明。 岡田監督の言葉の意味は、言葉通りではない。きっと、もっと深い。