「殺すぞ」脅迫文、カミソリ刃がロッカーに…パワハラで適応障害発症訴えるも労災認定されず バス運転士が国を提訴
ハラスメントの程度の評価が争点に
今回の訴訟は、労基署による処分の取り消しを求めるもの。 また、不適切発言を行った労基署職員はその後に槙野さんに謝罪したが、「誤解を招く言い方だった」という旨の、発言そのものの問題を認めない謝罪であったため、原告側は謝罪にあたって労基署が準備した書類の開示を請求した。 しかし、書類の内容が黒塗りであったため、今回の提訴ではこの書類に関する審査請求も併せて行う。 本訴訟の主な争点は、槙野さんが受けた心理的負荷の強度をどのように評価するかという点。 提訴後に会見を行った白神優理子弁護士は「本件で槙野さんが受けた心理的負荷は『強』と認定されるべきだ」と語った。 通常、ハラスメントの負荷を認定する際には、ハラスメントが執拗(しつよう)に行われたか否かが重視される。 労基署は、脅迫文を入れられたのは二回のみであること、槙野さんが相談した際に顧問から受けた脅迫などには証拠がないことを理由に、ハラスメントは執拗ではないと判断した。 一方、原告側は、脅迫文の内容の悪質さ、顧問に相談すると逆に脅迫されたという事実、また脅迫文の以前にも槙野さんが暴行やいじめを受けていたという事実など、厚労省の認定するハラスメントの基準に当てはまる事情が複数存在することから、「強」に引き上げるべきだと主張する。
元警察職員の顧問 2003年「武富士事件」にも関与か
会見にて、槙野さんは「子どものころから、バスの運転士に憧れていた」と語った。 「しかし、入社すると職場内でパワハラや脅迫を受けて、命の危険を感じた。なぜ脅されなければいけないのか」(槙野さん) 労基への「根回し」を行ったとのLINEを書いた顧問は、元警察職員。 2003年の週刊誌記事では、消費者金融「武富士」に警察職員が個人情報を提供し、見返りにビール券や時計などを受け取った情報漏洩・贈賄事件に関連して同氏が処分されたと報道されている。 問題のLINEを読んだ槙野さんは「まさか」と思いながら労基署に行ったが、そこで待っていたのは不適切発言と不支給処分だった。 「労基署に駆けこんでも助けてもらえないんだ、と絶望的な気持ちになった」(槙野さん) 白神弁護士はこれまでにもバス運転士の労働訴訟を複数担当してきた。今回の事件に限らず、多くの運転士がパワハラやカスハラ、長時間労働や低賃金に悩まされているという。 「バスは、地域住民にとって貴重な『足』。ところが、2000年の規制緩和を境に子会社化が進んだり参入が増えたりしたことで、労働環境が悪化した」(白神弁護士) 白神弁護士は「長時間労働は他者に対する攻撃的な態度をもたらす」とする医学的な論文を紹介しながら、バス業界でハラスメントや暴力が横行している背景には労働環境の問題がある、と語った。 「自分以外にも、退職に追い込まれた運転士がいる。バス業界の現実をマスコミの方に伝えていただきたい」(槙野さん)
弁護士JP編集部