「オムツをはいて排泄するのは難しい」ベテラン介護福祉士・安藤なつが見た介護現場のリアル
夜間の訪問介護、M-1決勝前夜にも
20歳になった安藤さんは、お笑い活動の傍ら介護の仕事を続けるため、ホームヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修に相当)の資格を取得する。 「これがあると訪問介護の仕事ができるようになるんです。というのも、伯父の施設は自宅からは遠く、お笑いをしながらメインのバイト先にするのは難しかったので。もちろん、昼間の訪問介護も無理。だったら夜やろうと思って」 夜間に行う訪問介護とは、要介護状態の利用者のために、家の鍵を預かって家族が夜寝ている間に、トイレ誘導や安否確認、体位交換、水分補給などをするサービスのこと。夜9時から15~20軒を回って、朝7時に帰宅。安藤さんは、これを週2、3回行っていた。 「最も印象に残っているのは、オムツ交換の業務です。もちろんやり方は知っていましたが、実際に寝ている利用者さんのオムツを交換するのは本当にハードでした……。 そのときに思い出したのが、資格を取るために通っていたスクールで出た、『オムツを使っている利用者さんの気持ちを理解するために、実際にオムツをはいて排泄(はいせつ)してみよう』という課題。 家でこっそりやればいいことで、他人の目があるわけじゃない。だからそれくらい余裕だろうと思ったのですが、なかなかどうして恥ずかしい!(笑) やっぱり、羞恥心が邪魔をするんですよ。それと同じで、頭でわかっていても、実際に経験してみないとわからないことってあるんだなと、現場での実務を通して再認識しましたね」 夜間訪問の仕事は、安藤さんが芸人としてブレイクするきっかけとなった2015年M-1グランプリの決勝前夜まで続けていたという。
お笑いも介護も両方やっていきたい
現在では芸能活動が忙しくなり、介護の現場に出ることはなくなった安藤さん。しかし介護への思いは強く、これから先も、何らかの形でずっと関わっていきたいと語る。 「芸人の仕事も介護の仕事も、どちらも同じくらい楽しくて、好きなんですよ。むしろ、お笑いのほうを辞めようと思ったことはあって。当時の相方にコンビ解散を切り出されてしまい……。 ところが、ピン芸人だったカズレーザーに誘われて、半ば押し切られるようにして『メイプル超合金』を結成。いや、人生ってわからないものですね(笑)。おかげで大好きなお笑いを続けつつ、大好きな介護の仕事についても発信ができる立場に。 現場で働くのは難しくても、今は“広報マン”的な立ち位置で、介護の魅力を伝えていきたいと考えています」 こういった経緯から、安藤さんのもとには介護にまつわるオファーがくるように。さらに昨年、ハードな講習とテストをクリアして介護福祉士の資格を取得。そこまでしてこだわる介護の仕事。安藤さんが考える魅力ややりがいとは? 「何といっても楽しいことです。介護する方の人生に寄り添って、何をしたいのか、どうしたら健やかに過ごせるかを考えて、それを実行する。 それで、その人が少しでもいい状態、いい気持ちになってくれると、本当にうれしいし、報われます。それ自体が楽しいことだと思いませんか?」 安藤さんは「介護の仕事がことさら大変だと思われがちなのは、一般的に想像しやすい介護の現場が、在宅での“家族による家族のケア”だからではないか」と指摘する。