なぜ日本記録保持者の大迫傑は東京マラソン目標タイムを「??:??:??」としたのか?
終盤までトップ争いを演じたシカゴは30kmを1時間29分46秒で通過。その後の10kmを29分13秒でカバーしているが、単独でシカゴ以上のペースで突っ走るのは現実的ではない。第1集団でレースを進めない限り、日本新の誕生はないと見ていいだろう。 それでも大迫のポテンシャルを考えると、日本新への期待感も捨てきれない。トレーニングに関しては“シークレット”のため多くを語らないが、「ただひとつ言えることは、今回もできる限りの準備はしてきました。大変な練習もありましたが、それを乗り超えることができましたし、自分のなかで充実感はあります。相手次第ですけど、優勝できればいいなと思っています。仮にそうではないとしても、自分の100%を出せれば、次につながる。スタートラインに立つのが楽しみです」と話したからだ。果たして大迫の“TOKYO初参戦”はどんなエンディングが待っているのか。 いまいち歯切れが良くなかった大迫に対して、トップ集団でレースを進めると答えたのが、中村匠吾(26、富士通)と佐藤悠基(32、日清食品グループ)だ。ともに目標タイムは「2:06:30」と同じ数字を書き込んでいる。 中村は大迫の1学年下で26歳。昨年9月のベルリンマラソンで自己ベストの2時間8分16秒で4位に食い込んでいる。東京に向けては、4か月間しっかり準備しており、キロ2分57~58秒ペースを意識してトレーニングを積んできたという。 「今回は先頭集団で勝負します。ベルリンは35kmからペースが落ちたので、そこから我慢していきたい。自分も大迫さんの活躍に刺激を受けていますし、勝ちたいという気持ちは当然あります。40km以降の勝負になれば勝てるチャンスは十分ある。そこまでに引き離されないことが大切だと思っています」 中村は大迫と同じくナイキを履く選手。過去2回のマラソンと異なり、今回は噂の厚底シューズで勝負に出る。 「ズーム ヴェイパーフライ 4%を使うようになって、ポイント練習翌日の疲労度が少なくなりました。このシューズを履くことで、自分の走りにプラスになってくるんじゃないかと思っています。終盤の走りが変わり、ひとつ上積みできたらいいですね」と話す。 32歳の佐藤は大迫にとって高校(佐久長聖)と実業団の先輩に当たる。日本選手権1万mで4連覇(11~14年)を飾っているが、そのうち3回(12~14年)は大迫をラスト勝負で下している(大迫は3年連続の2位)。マラソンでは後輩に先を越されたかたちになったものの、昨年の大会を2時間8分58秒の自己ベストで走るなど、徐々にマラソンでも結果を残すようになった。 今回は、「攻めの走りでどんどんチャレンジしていくレースをして、少しでも長くトップに食らいつきたい」と意気込んでいる。大迫への意識はさほどないというが、「確実に質の高いことがやれるようになっています。スタートラインに立てば勝負の世界です。残り5kmを切って並んでいれば、そこは意識するかもしれません。まずは終盤まで並んでいられるように自分をコントロールして最高のレースがしたいと思っています」と静かに燃えている。 中村、佐藤の快走を引き出すには大迫の存在が欠かせない。東京マラソン2019のキーパーソンはSuguru Osakoで間違いないだろう。 (文責・酒井政人/スポーツライター)