社説:韓国大統領の弾劾 速やかに政治混乱の収拾を
韓国国会は、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案を可決した。 強行した「非常戒厳」は憲法違反として、野党が出した2度目の弾劾案に与党議員の造反による賛成が広がり、「退場宣告」を突きつけた形だ。 尹氏は職務停止となり、権限は韓悳洙(ハンドクス)首相が代行する。 これに対し、尹氏は「決して諦めない」と談話を発表し、争う姿勢を示している。 今後、憲法裁判所が180日以内に罷免の是非を判断する。裁判官9人のうち6人の賛成で罷免となれば、60日以内に大統領選が行われる。2016年に罷免となった朴槿恵(パクウネ)大統領に続き、弾劾訴追は3例目となる。 最長で240日間にわたって「大統領不在」となる。 国内外に多大な影響を及ぼす政局混乱の長期化は極力、避けるべきだ。 再提出の弾劾案可決は、国民の批判世論の高まりからだろう。尹氏は、4月に与党が大敗した総選挙は結果がねじ曲げられたと主張。戒厳の発令について、国政運営を妨害する野党の行動を知らせるためだったと正当化した。 戒厳令では、軍兵士を選管本庁舎に送り、職員の携帯電話を押収した。国会にも突入させ、「議員を引っ張り出せ」と指示したとの証言も出ている。 与党に任期を委ねるとした意向を翻して開き直る姿勢に、世論の7割以上が弾劾を求めた。 このため、1回目の弾劾案採決には出席せず、廃案とした与党も、2回目は少なくとも12人の議員が賛成に回った。与党代表は辞意を表明した。 与党は朴氏の弾劾訴追の後、下野した「悪夢」を引きずったのではないか。党利党略に走った責任は重い。 憲法裁での審判と並行し、捜査当局の捜査も焦点だ。現職大統領には不訴追特権があるが、告発された内乱罪は例外だ。当局は尹氏を首謀者とみており、戒厳を進言したとされる前国防相、警察庁長官らを内乱容疑で逮捕した。 尹氏は、検察による2度の出頭要請には応じていないが、内外から厳しい目が向けられるだろう。 首相のトップ外交への対応には限界がある。大統領の不在は、東アジアの安全保障環境にも影響を与えかねない。 来年は日韓国交正常化60周年の節目で、首脳同士の相互訪問「シャトル外交」の活発化が期待されていた。しかし、今月に予定されていた中谷元・防衛相の訪韓は見送られ、年明けで調整されていた石破茂首相の訪問も困難になった。 多国間協力に後ろ向きな米国のトランプ氏の大統領就任を控え、日韓の緊密な意思疎通は欠かせない。 速やかな政治混乱の収拾と、政権体制の再構築が求められている。