JR東日本の経営権をめぐる覇権争い...介入する政府の意思「ことごとくひっくり返る」人事の「真相」
安倍元首相が国士と賞賛した葛西敬之が死の床についた。政界と密接に関わり、国鉄の民営化や晩年ではリニア事業の推進に心血を注ぎ、日本のインフラに貢献してきた。また、安倍を初めとする政治家たちと親交を深め、10年以上も中心となって日本を「事実上」動かしてきた。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では、類まれなる愛国者であった葛西敬之の生涯を振り返り、日本を裏で操ってきたフィクサーの知られざる素顔を『国商』(森功著)から一部抜粋して紹介する。 『国商』連載第24回 『「革マルとの決別」... 動労のカリスマ・松崎明が仕掛けた「まさかの」裏切り行為と「JR」の誕生に隠された真の「狙い」』より続く
組織変革により覆されたトップ人事
地域ごとに国鉄を分ける分割後、幹部たちがどこに配置されるか。国鉄改革が大詰めを迎え、その人事配置が注目された。焦点はやはり首都圏を走るJR東日本の経営の舵を誰が握るか、だ。 民営化後の経営再建策として「JR東日本ハブ会社構想」なる計画が持ちあがったことがある。名称通り、首都圏の巨大な交通需要を背景にしたJR東日本が中核企業となり、分割された他のJR各社の経営を支援しながらグループの一体化を保って路線運営をしていく。国鉄最後の総裁の杉浦とともに、総裁の補佐役である総裁室長の井手が、この構想を進めていた。しかし、葛西はこのJR東日本ハブ会社構想に反対した。自著『飛躍への挑戦』にこう書いている。 〈その構想が煮詰まったのは昭和六一年五月に割増退職金法が成立し、自民党が「死んだふり解散」による衆参同日選挙で地滑り的な大勝を博した後と考えられる。再建実施推進本部の井手総裁室長と腹心の若手経営計画主幹が構想し、杉浦総裁の承認を得たと思われるが、両本部連絡会の場で説明されることはなかった。分割民営化の発足後自ずから明らかになった〉 葛西はJR東日本ハブ会社構想を民営化後にはじめて知ったという。構想は井手が提案し、松田もそこに与していた。葛西は改革三人組と呼ばれながら、井手や松田への対抗意識を隠さない。というより、批判的である。人事に対する悔恨がそうさせているように思えてならない。 国鉄分割民営化後、JR東日本の幹部人事をはじめJR各社の人事を巡ってひと悶着あった。三人組でいえば、松田は出身地のJR北海道勤務を希望した。葛西の配属先はJR東海の総合企画本部長だと予想された。先の『飛躍への挑戦』でも自ら〈JR東海への配属は私にとって願ってもない幸運だった〉と書いている。だが、実のところ葛西本人の希望はJR東日本であり、近い将来、JR東日本の社長を狙っていたと伝えられる。