「被災前よりおいしい酒を」 能登半島地震で損壊の老舗・白藤酒造店、来春再開へ復旧作業
元日の能登半島地震では、全国有数の酒どころ「奥能登」にある全11の酒蔵が被災し、石川県輪島市の老舗・白藤(はくとう)酒造店も酒造りの中断を余儀なくされた。地震後、協力を申し出た県内外の酒蔵の施設を借りて醸造を続けながら、来春の再開に向けて復旧作業を進める。地震から間もなく1年。「支援してくれた人たちのご恩に報いたい」と蔵元は決意を新たにする。 【写真】白藤酒造店の代表・白藤喜一さん 年の瀬が迫る26日、輪島市街地にある白藤酒造店の酒蔵では、酒米を蒸す大釜(直径約1・5メートル)を支える基礎部分の修復作業が行われていた。職人たちがレンガの周囲にコンクリートを流し込み、丁寧に成形していく。傍らでは、9代目蔵元の白藤喜一(はくとうきいち)さん(51)が見守っていた。 享保7(1722)年に回船問屋として創業し、江戸時代末期ごろから酒造りを始めたという老舗の酒蔵。銘酒「奥能登の白菊」で知られ、口当たりが柔らかく上品な甘みが特徴だ。 輪島市内は元日の地震で最大震度7の激しい揺れに見舞われ、同酒造店も事務所など数棟ある建物のほとんどが損壊した。平成19年の地震で被災した後に補強した蔵は倒れなかったが、タンクが破損して床一面にもろみが漏れ出し、大釜の基礎部分にもひびが入って使用できなくなった。 窮地に陥った白藤さんを心配し、被災直後の1月4日には山形県で酒蔵を営む大学時代の先輩が駆け付けてくれた。10日後には、先輩ら県内外の酒蔵の協力も得てタンクに残ったもろみを運び出し、他の施設で出荷にこぎつけることができた。白藤さんは「仕込みが忙しい時期に、道も危険な中で助けに来てくれたのは本当にありがたかった」と振り返る。 自前の施設は損傷が激しく、当面は酒造りを断念せざるを得ない状況だったが、核となる蔵は倒壊せず、釜も煙突も形をとどめていた。「これならば再開できる」との感触があった上に、県内の農家が作ってくれた酒米もある。「待ってる人がいるならば、辞めるという選択肢はない」と再開へ覚悟を決めた。 当面は地震で傷んだ酒蔵の断熱材の張り替えなどを進め、年明け以降に新たなタンクを設置。3月ごろに仕込みを開始し、5月ごろの出来上がりを目指すという。
同酒造店には地震後、全国の日本酒ファンらから「再開を楽しみにしています」「応援しています」との声も届けられているという。白藤さんは「応援の声を励みに、被災前よりもおいしいお酒をつくりたい」と意気込んでいる。(秋山紀浩)