阪神・近本の球宴サイクル達成を巡って賛否。アシストしたかに見えた全パ“忖度”はアリかナシか?
この日の球宴をラジオ解説した阪神の掛布雅之SEAは、「ファンの方々に喜んでもらう、楽しんでもらうというのが球宴。その趣旨からすれば、ああいう一連のプレーは許される範疇のものではないでしょうか」という「アリ」側の意見だった。 掛布SEAも現役時代に三塁手として広島・山本浩二氏のサイクル安打をアシストしたと言われるプレーをした経験がある。この試合は公式戦だったため、掛布SEAは多くを語らないが、プロとして許される範疇のリスペクトを込めた配慮だったのだろう。日本人らしい“優しさ”“美徳”と言ってもいいのかもしれない。 そう考えると、今回の近本のサイクル安打をアシストした全パのプレーもファンファーストの精神を忘れない“美徳”だったと思う。 ただ、球宴は記録への挑戦が焦点になっていたという歴史を傷つけてはならない。江夏豊氏の9連続三振。江川卓氏が、その記録更新に挑んだ8連続三振。また掛布SEAの3打席連続本塁打という記録もある。これらの記録は正真正銘の真剣勝負だった。“忖度”で生まれた記録を史上何人目とカウントしていいのか、という議論もある。それは過去の偉大なる記録に対するリスペクトに欠けた行為であったという一面も否定できない。 掛布SEAは、こんな問題提起をした。 「投手がストライクゾーンで自分のベストのボールで勝負して、打者がフルスイングで真っ向勝負する野球は見ごたえがあって非常に楽しかったですね。ピッチャーの手元からボールが離れるときに始まる野球とボールとバットがぶつかるところから始まる野球の差とでも申しましょうか。私は、4番のバントを決して否定するわけではありませんが、小細工のない、こういう力と力、技術と技術の戦いという野球の本質を忘れないでいただきたいし、ファンも望んでいるのでしょう」 今回の球宴には日本のプロ野球が見失いつつある原点が見えたというのだ。ペナントレースの野球の形が変化している時代だからこそ球宴の存在意義も変わってくる。 1996年の球宴では、全パの仰木彬監督が、打席に松井秀喜氏を迎えた場面で「ピッチャー・イチロー」を演出したが、全セの野村克也監督は、球宴と松井氏を冒涜する行為であると、これを松井氏と相談の上で拒否。代打に投手の高津臣吾氏を送った。まだ交流戦も行われておらず「人気のセ」に「実力のパ」が対抗、球宴に真剣勝負の香が残っている時代だった。近本のサイクル安打達成を助けたかに見えた全パの“忖度”は、その時代ではありえなかっただろう。 今回の“忖度”の「アリ」「ナシ」議論で、大半の人が「アリ」を支持しているのは、今の時代とファンが求めている球宴の方向性を示しているのかもしれない。