山口俊処分を巡って巨人と選手会が全面対決。言い分が正しいのはどっち?
球団が行う最も重い処分は“解雇”だろう。 今年8月に起きたオリックスの奥浪鏡内野手が免許停止中に無免許運転して逮捕された事件では契約解除(解雇)処分が下された。自動車事故絡みでは、オリックスの前川勝彦投手が、2007年に無免許、ひき逃げと、業務上過失傷害の疑いで逮捕され、無期限謹慎処分から、起訴後、契約解除されている。 山口の事件に近い、飲酒暴行事件では、1987年に、当時大洋の竹田光訓投手ら3選手が起こしていて、無期限謹慎処分を下されている。 元千葉ロッテの評論家、里崎智也氏も、「この処分に重い、軽いの判断を下すことはできないでしょう。法廷での判例のようなものが野球界にはなく、契約関係もプロ野球選手はあくまでも個人事業主なので、社員が会社と結ぶ就業規則のようなものもありませんし、比較論は難しいでしょう。1億円以上の罰金が高いか安いかも、そもそも山口選手がどんな複数年契約を結んでいるかも明らかになっていませんから、彼にとってどれくらいの重さのものなのかもわかりません。では、今季終了までの出場停止ではなく、契約解除が相当なのかどうかも、判断基準がありませんから」という意見だ。 もうひとつ、選手会側が問題視した“解雇”をちらつかせて複数年契約を見直したという件はどうだろう。選手会側は、優位な立場にある球団がこういう交渉の仕方をするのは、独占禁止法に抵触するとも主張するが、巨人はこの日、「契約見直し等は山口投手も納得の上で行われており、野球協約や一般法令に反する点は一切ない」と文書で反論した。 里崎氏は、この問題に関しては巨人側に賛同している。 「選手会側が、巨人とも話をしていたのであるなら、とことん納得のいく形になるまで交渉を続けるべきではなかったのでしょうか。山口選手自身が、その契約の見直しにも納得をして謝罪の記者会見まで行っているのですから、契約が成立してから、“契約解除をちらつかされて無理やり契約を見直された”と主張するのはどうなのでしょう。山口選手自身が了承したことがすべてでしょう」 労組の立場からすれば選手が不利益をこうむる出来事について黙っていられないのは理解できる。当然の権利であり、巨人が言う「不当な介入」では断じてない。 だが、今回の経緯をFA制度の根幹にかかわる問題にまで発展させ、「巨人軍が本件を奇貨として不当な契約解除を突きつけることで、金銭的な負担を軽くする意図があったのではないかと邪推せざるを得ません」と、契約の見直しを巨人の“人件費削減”にまで結びつけるロジックには無理がある。 今回の問題で忘れてはならないのは、山口の活躍を楽しみにしていたファンへの裏切りと、現場へ与えた失望だろう。そして示談が成立したといえど何より被害者へのケアが必要だ。それらの裏切りに対して、どうお詫びをして埋め合わせするのか、が重要で、1億円以上の罰金と今季の出場停止の処分で、ファンへの禊が済んだと考えるのは大きな間違いである。 そして山口は、今季からFA移籍してきた選手とはいえ、野球賭博事件の教訓から得た選手へのモラルの啓蒙やコンプライアンスの徹底を結果的に怠った巨人フロントの管理責任をどう総括するのか。1987年の大洋で起きた飲酒暴行の事件の際には、フロントマンが管理責任を問われて3か月の減給となっている。 山口の事件で管理責任を問う“自浄処分”を巨人は何もしていない。むしろ問題は、処分の重い、軽いや、どちらの言い分が正しいのか、ではなく、山口の“犯した罪”と、戦力補強に目がくらみ、山口の性格などを把握せず、不祥事につなげてしまった巨人の管理体制の甘さと体質ではないだろうか。