殺人未遂逮捕の人気ミュージシャン、自殺願望と「音楽死ね死ね死ね…」。何に追い詰められていたのか
「ぷす」は何に追い詰められていたのか?
そこで、「ツユ」の曲の傾向から、「ぷす」を追い詰めたものがあるとすれば、それは何だったのかを考えたいと思います。 代表曲「傷つけど、愛してる。」を聞いて浮かんだのはYOASOBIでした。と言っても、具体的にどこがというわけではなく、曲作りの方法論が同じ。あ、これはボカロだな、という作りなのです。 どういうことかといえば、一曲にありったけの音節を詰め込んで、誰が一番複雑な割り算を解けたかを競っているような音楽。いわば、そろばん競技みたいなものです。
これを作り続けたら疲弊するのは当たり前…?
たとえば、 <派手な痛み 圧に 酷く 強く 耐えて だけど 全部守るって 覚悟決めた あの日の涙には 嘘なんて 嘘なんて 証明だって出来るから 「出来ないでしょ」 じゃあ正義は何処に在るの?> という部分。「ぷす」の作曲は、句読点の存在を感じさせることなく、これを歌い手に一息で歌わせるのです。 しかも、ハイテンポ、めくるめくコードチェンジ、転調。バンド演奏はどのパートもフルボリューム。ストロング系のチューハイをエナジードリンクで割ったテンション。とてもケミカルな味わいがする音楽なのです。 これを、人の肉声で歌わせるアンバランスこそが、ボカロ系の面白さなのでしょう。「傷つけど、愛してる。」も、その点では成功しています。ジェットコースターのような転調、畳み掛ける符割、おそらくは小室哲哉からくる脈略のないキーチェンジ。 これらをひとつの曲の中で有機的に機能させるのではなく、むしろ血流を失ったパーツとして分解されたのちに人工的に組み直される。つぎはぎを隠さずに、あえて加工物であることを強調する仕上がり。 もろい倒錯が生み出す刹那的なスリルは、きわめて現代的なエンターテイメントだと言えるでしょう。
アンチからのメールをそのまま曲に
また炎上上等といった「ぷす」のキャラクターも、SNS時代にマッチしていました。自分のアンチが実名でメールを送ってきたエピソードをそのまま曲にした「フルネームアンチ」は、瞬時に数値化されるリアクションやアテンションが生んだモチーフです。 曲の長さも1分4秒。出オチこそが音楽である時代の空気をよく理解しています。