ピアニスト、フジコ・ヘミングさん「間違えたっていい…機械じゃない」完璧さ追わないしなやかさ「天寿がん」実践され旅立ち
【ドクター和のニッポン臨終図巻】 65歳で町医者を卒業した僕。第二の人生は、歌手の夢を叶えたい――そんなわけで6月15日(土)は神戸の「クラブ月世界」で、22日(土)は東京の「南青山MANDARA」でライブ! 大好きな桑田佳祐さんと中島みゆきさんの曲を唄いますので、皆さん遊びに来てください(詳細は僕の公式HPに)。今は毎日、歌の練習中なのですが、なかなか歌詞が覚えられない。「歳やなァ…」と落ち込んでいるとき、この人の言葉がラジオから流れてきました。 「少しくらい間違えたっていいじゃない。機械じゃないんだから」 焦りがすっと消える言葉です。この名言の主である世界的ピアニストのフジコ・ヘミングさんが4月21日に亡くなりました。享年92。死因は膵臓(すいぞう)がんとの発表です。 フジコさんは、昨年11月に自宅で転倒してけがをされ、その後のコンサートを中止していました。リハビリを続けていましたが、今年3月には、膵臓がんと診断されて療養をされていたそうです。 90歳を過ぎて、がんと診断されたらどうすればいいのですか? ときどきそんな質問を頂きます。もちろんご本人の意思ありきですが、「何もしなくていいと思うよ」とお答えしています。 高齢化社会とともに、「天寿がん」という概念が浸透してきたように感じていますが、読者の皆さんはこの言葉を知っていますか? 「天寿がん」という概念を提案されたのは、医学博士の北川知行氏(公益財団法人がん研究会がん研究所名誉所長)です。 1994年に、天寿がんは「安らかに人を死に導く超高齢者(男性85歳、女性90歳以上)のがん」と定義されました。がん治療は高齢になるほど攻撃的であってはならない。がんと共に寿命を全うできる年齢がある。すなわち限りなく自然死、平穏死となる、がん。 北川先生は天寿がんを普及するため、以下の「6つの思想」を発案されました。紹介します。 ①人は天寿を授かっている②安らかに天寿を全うすることは祝福されるべきことである(死因は不問)③超高齢者のがんは、長生きの税金のようなものである④超高齢者のがん死は、人の一生の自然な終焉(しゅうえん)の1パターンと考えられる⑤天寿がんなら「がん死」も悪くない⑥天寿がんとわかれば、攻撃的治療も無意味な延命治療も行わない