<社会インフラを行く!>巨大虫の翅「飯田橋駅換気塔」
都営地下鉄大江戸線の飯田橋駅C3出口に、この巨大な「虫の翅(はね)」がある。通行人を捕食するために待ち構えているような様には、ただの金属ではない、生命体の息吹を感じる。この異彩を放つデザインは、建築家渡辺誠氏により産み出され、2002年の日本建築学会賞(作品)を受賞した。 翅は単なるオブジェではない。駅施設の換気塔であり、大都市・東京を構成する大切なインフラの一つである。構造物の背面をのぞくと、鉄骨は直線だけではなく、曲線が巧みに組み合わされていることに気づくだろう。金属の翅は、ゆるやかな曲面を描きながら、荷重を支えるフレームと結合する。硬い金属のしなやかな曲がり具合は、計算された機能美である。
この構造物に捕食されないように、駅階段を下る。階段とエスカレータの天井には、ひと際目を引く照明を兼ねた緑色のウェブフレーム(骨組)が蜘蛛の巣状に這っている。単調な通路は、この工夫によって、地下空間を探検しているような気分にもさせる。 これらの換気塔とウェブフレームによって、地下空間と地上空間が連続性をもってつながり、ひとつの“生態系”をなすのか。 地上の換気塔部分は芽を出している植物を、地下の緑のフレームは根や枝をイメージしているとも聞くが、果たして、これらは昆虫なのか? それとも植物なのか? それはどちらでも良いことなのかも知れない。なぜなら、この構造物は、自然の生態系から学んだデザインによって産み出されたものだからだ。 (監修:吉川弘道・東京都市大学教授)