輪島海女漁、感謝の再開 「潜れただけでうれしい」130人がモズク水揚げ
●隆起、土砂流入で景色一変 地震で活気を失っていた奥能登の港町に海女(あま)たちの歓声が戻った。輪島市で12日、素潜りによる伝統の海女漁が再開され、漁場を管理する海士(あま)町磯入(いそいり)組合の130人がモズク2㌧を水揚げした。地盤の隆起や土砂の流入で海底の景色は一変。これまでとの勝手の違いに戸惑う声も聞かれたが、海女たちは「潜れただけでもうれしい」と喜びをかみしめ、なりわい復活へ一歩を踏み出した。 【写真】素潜りで漁を続ける海女 初日に集まった130人のうち3分の1は輪島市外の避難先から駆け付けた。「子どものころの運動会の前の日みたい。ワクワクした」。「輪島の海女漁保存振興会」理事の濵谷美恵さん(43)は前日、2次避難先の金沢から輪島に戻り、心を躍らせながら当日を迎えた。 夜明けとともに輪島港に集まった海女は次々と船に乗り込み、午前6時半ごろに沖合へ向けて出航。待ちかねたように次々と海へ飛び込んだ。しかし、そこには、よく知る海とは異なる光景が広がっていた。 「岩に泥がかぶさり、モズクが生えていた場所に別の海藻があった。違う海みたい」。中学卒業以来海女を続ける井上美栄さん(50)は海中の様子をこう説明した。「海底が隆起して、いつもは潜らない深い所まで行った」といい、少し疲れた表情。振興会会長の門木(かどき)奈津希さん(43)も「海の景色が変わった。砂場だった場所が岩場になり、海も浅くなった」と話した。 ただ、港へ戻った海女に落ち込んだ様子はなかった。「崩れた土砂が海の中に入っとった」「しけでヌメヌメが少しとれた」と文句を言いながらも、表情は笑顔。年配の海女たちはモズクいっぱいの箱を抱えて「あー、ちきねぇね(疲れたね)」と声を掛け合い、漁の喜びを分かち合っていた。 「安心した。ずっと待っていた」。海女たちでにぎわう港を見て、モズクを購入した七尾市の水産業「大市水産」の大根宗司社長は感慨を口にした。 漁は当面、モズクのみで、水揚げ量も1人1日15キロまでに制限される。さらに、稼ぎが良い舳倉島沖や七ツ島沖などでのサザエ・アワビの素潜り漁は再開の見通しが立っていない。 それでも海女は弱音をはかなかった。「とりあえずほっとした。潜れただけ、モズクだけでもうれしい。日常を取り戻す第一歩になった」。門木さんは力強くそう語った。 ●復旧方針を公表 国交省 国土交通省や石川県、輪島市は12日、能登半島地震で海底が隆起した輪島港の短期復旧方針を発表した。港内での復旧作業が完了した箇所から段階的な操業再開を目指すとともに、2~3年で地震前の状態に戻すとの目標を掲げた。