銀シャリ・橋本 直、初のエッセイ集。些細なことも見逃さない観察眼とツッコミ力が冴えわたる!
お笑いコンビ「銀シャリ」のツッコミ担当の橋本 直さん。漫才やトーク番組で次々と繰り出されるワードセンスあふれるツッコミは、芸人の中でもずば抜けているのではないでしょうか。橋本さんの頭の中って一体どんなふうになってんの......!? それを知ることができるのが、橋本さんの初エッセイ集『細かいところが気になりすぎて』です。雑誌『波』で連載されていたものに書き下ろし「結婚」を含む全20編が収録された同書では、子どものころの思い出や亡くなった父の話、日常生活の出来事など「細かいところが気になりすぎる」ことについて、これでもかというほどセルフツッコミを入れながら綴っています。 意外なのは、幼少期からおしゃべりだったのかと思いきや、幼稚園や小学校のころは笑顔の記憶がなく人見知りでおとなしかったということ(それを「とにかく観月ありさもびっくりの、稀にみるTOO SHY SHY BOY!だったのだ」(同書より)とたとえるのが橋本さんらしい......)。ただ、脳内ではめちゃくちゃしゃべっていたそうで、それが何かの拍子で外に発するモードに切り替わり「芸人」という仕事につながったとのこと。人生って何がどうなるかわからないものだと感じさせられますね。 もうひとつ心に残るのが、相方である鰻 和弘さんとのエピソードです。橋本さんは食に対する好奇心が旺盛で、劇場仕事の合間には散歩がてら新しいお店を開拓したり、地方に行ったら必ずご当地ものを食べたりするタイプなのに対し、鰻さんは超・安定志向。アイスならバニラ一択、お昼ごはんもつけ麺か牛丼かカレーハウスCoCo壱番屋(それも決まったメニュー)のどれかだそうです。うどんで有名な香川県に行ったときですら、楽屋で即席めんの「どん兵衛」を食べていたというから筋金入りですね。 食について「チェーン店であろうが高級店であろうが、昼飯であろうが晩飯であろうが、関係ない。その瞬間ごとに最善の選択をすべきなのである」(同書より)という持論の橋本さんに対し、「知っているお店に行けばハズレることはない、安定の美味しい味が楽しめる」(同書より)という考えの鰻さん。ここまで正反対の二人が運命共同体ともいえるコンビを組んでいるというのも面白いし、ここまでかけ離れているからこそ橋本さんの鰻さんへのツッコミは永遠に止むことがないのかもしれません。 ほかにも、「『ミュージックステーション』の時のバンドみたいな座り方すな!」「スパイ映画とかで傘やカバンがいきなり銃になるやつやん!」「フランス料理のブイヤベースもしかりで、フランスの人も汁に対するセンスありまくりやん!」「昼バイトの子がシフトを変わるタイミングで夜バイトの子にも言うやつやん......」(同書より)など、橋本さんならではのツッコミがさく裂しまくる同書。おなかをかかえて笑いながらも、お父さんとのエピソードや漫才に対する思いなどにはちょっぴりホロリとさせられるところもあり、橋本さんの知性や文章力が感じられる一冊になっています。 ちなみに、同書には鰻さんの4コマ漫画も収録。橋本さんの日常感あふれるエッセイとは異なる脱力系テイストが、これまたいい味を醸し出しています。 [文・鷺ノ宮やよい]