建築家、安藤忠雄らがデザイン!『PERFECT DAYS』にも登場する渋谷区の個性豊かな公衆トイレたち
第76回カンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞に輝いた、ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』(公開中)。トイレ清掃員として働く男の静かな日々を追った本作のおもな舞台は公衆トイレ。その撮影には、東京・渋谷区に実在する公衆トイレが使われた。アートな佇まいの個性豊かなトイレたちは、快適な公共トイレをデザインするプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の一環で建てられたもの。そんな、映画を飾った“もう一人の主役”たちを紹介しよう。 【写真を見る】世界一清潔な公共トイレを目指して、ドアの開閉から洗浄までボイスコマンドで反応する「手をつかわないトイレ」こと七号通り公園トイレ ■トイレ清掃員、平山の美しさにあふれた日常 公衆トイレの清掃員をしている平山(役所)は、毎朝同じ時間に起きて支度をし、植木に水をやり、缶コーヒーを飲みながら仕事に出かける。一方で、好きな音楽や本、写真を楽しむ静かな日々を送っていた。そんな下町の小さな家で暮らす彼の元に、ある日突然、疎遠になっていた妹の娘ニコ(中野有紗)が現れる…。 本作に登場するのは、2020~23年にかけて渋谷区内に設置された17の公衆トイレ。性別、年齢、障がいを問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレを目指し、日本を代表する建築家やデザイナーが腕をふるった作品たちだ。 ■平山が清掃する「THE TOKYO TOILET」の公衆トイレたち ■代々木八幡公衆トイレ/建築家:伊東豊雄 映画でおもしろい見せ場を作ったのが、「Three Mushrooms」という名のトイレ。個室の掃除中に平山は、壁の隙間に挟まれた一枚の紙切れを発見。そこには“井”の字が書かれ、真ん中にマルが書かれていた。マルバツゲームである。そのままゴミ袋に入れた平山だが、ふと思いとどまりバツを書き入れ壁の隙間に戻したことで、見知らぬ誰かとのマルバツゲームがスタートする。 ■代々木深町小公園トイレ/建築家:坂 茂 ガラス張りの箱を並べたようなユニークなトイレは、「ザ トウメイ トウキョウ トイレット」。鍵をかけると壁に仕込まれた粒子によって不透明になる。2020年の設置時は「透明トイレ」としてメディアでも大きく取り上げられ、劇中でも外国人女性がどう使ったらよいか平山に尋ねる姿が描かれた。同じ作りで色違いの「はるのおがわコミュニティパークトイレ」は、平山が同僚タカシ(柄本時生)の彼女アヤ(アオイヤマダ)と知り合う場に使われた。 ■西原一丁目公園トイレ/建築家:坂倉竹之助 「ANDON TOILET」の名前の通り、時代劇でおなじみの行灯を思わせる四角い形。壁は乳白色の磨りガラスになっており、昼間は周囲の植物がシルエットを落とし、夜は和紙を通してろうそくの炎を灯したような淡い光を放つ幻想的な味わい。仕事中にタカシの幼なじみデラちゃん(吉田葵)が訪れるシーンに使われた。 ■神宮通公園トイレ/建築家:安藤忠雄 「あまやどり」と題されたこちらのトイレは、縞のような縦のラインは模様ではなく、細い木材を等間隔に並べたもの。風通しをよくすることで湿気がこもるのを防いできた日本の伝統を受け継いだ作りになっている。内側にいると、外を通る人影が幻想的なシルエットを作りだす。映画では平山と彼の仕事に同行するニコが一緒に訪れ、その仕事ぶりを見て彼女がなにかを感じるシーンに使われた。 ■七号通り公園トイレ/クリエイティブディレクター:佐藤カズー コロナ禍を経験したことで、“触れる”ことに対して敏感になった人も少なくないはず。「Hi Toilet手をつかわないトイレ」と名付けられたこちらのトイレは、世界一清潔な公共トイレを極めた結果、ドアの開閉から洗浄までボイスコマンドを使う正真正銘の“手を使わない”トイレ。映画では、いきなり仕事を辞めてしまったタカシの担当地区まで清掃することになった平山が夜になっても働いているシーンで、その外観が登場する。闇のなかに浮かぶ不思議な姿も印象的だ。 ほかにも「THE TOKYO TOILET」には、広尾東公園トイレ「Monumentum」(クリエイティブディレクター、アートディレクター:後智仁)や、恵比寿公園トイレ(インテリアデザイナー:片山正通/Wonderwall(R))、鍋島松濤公園トイレ「森のコミチ」(建築家:隈研吾)といった多彩なトイレがラインナップされており、どれも個性豊かで思わず入ってみたくなるものばかり。 また、劇中で役所が着ているユニフォームは、神宮前公衆トイレをデザインしたNIGO(R)監修による実際の清掃員のものと同じ。利用者目線で丁寧な清掃やメンテナンスが行われている、渋谷のアートな公衆トイレ巡りをして、映画の世界を追体験してみてはいかがだろうか。 文/神武団四郎