polly、新体制となって初となるフルアルバム『Hope Hope Hope』で描いた〈終わり〉にみた希望
polly、通算4作目となるフルアルバム『Hope Hope Hope』。メンバー2名の脱退を経て、越雲、高岩 栄紀(ドラム)、志水美日(キーボード、コーラス)の3人で丁寧に構築していった幻想的で甘美なサウンドが鳴らされる本作には、昨年リリースされたEP『Heavenly Heavenly』収録の5曲をはじめ、EPリリース以降に生まれた新曲や「Slow Goodbye」の新録バージョンなど全13曲が収められている。
4月に行われたワンマンのステージで、アルバムが完成間近であること、そのタイトルを『THE END』にしたいと考えていると口にした越雲龍馬。2022年7月に新体制となったバンドが作る最初のアルバムだというのに、このフロントマンは、なんとも不穏な言葉を選ぼうとしてるのだろうかと思ったものだが、手元に届いた資料には、あの日話していたものとは違うタイトルが記されていた。 たまたまではあるが、彼らの初音源『青、時々、goodbye』が9年前にリリースされた日に行われた今回のインタビュー。当時から〈別れ〉や〈終わり〉というものをテーマにした歌を紡いできた越雲だが、これまで以上に〈終わり〉というものを見つめ、不安定な心の内を音に吐き出している本作について、終始俯きながらも正直に語った言葉たちをここに届けたいと思う。音楽を、自分自身を諦めてない人間が灯す、終わりにみた希望の光。
〈希望だぜ!〉みたいな前向きなものではない
ーー9年前の今日、ファーストミニアルバムが出たとXで呟かれてましたけど、その作品に「hello goodbye」という曲が入っているじゃないですか。そして今回のアルバムにも、「Long Goodbye」と「Slow Goodbye」の新録ヴァージョンが入っていて。 「別れとか終わりとか、そういうものに取り憑かれているんでしょうね。きっと自分にとって、〈悲しい〉とか〈怒り〉〈恐れ〉とかネガティヴな感情が曲に一番直結しやすいものなんだろうなって思います」 ーーそれは自分の中でずっと変わらないものである、という自覚もありますか。 「そうですね。もちろん、その角度だったり、アウトプットの仕方はだいぶ変わったと思いますけど」 ーーそうですね。これまでのpolly作品を聴いてきて、その捉え方も、表現の仕方も、9年という時間の中で、グラデーションを描くように変わってきていることは感じます。そして今回のアルバムですが、4月のワンマンで、タイトルの話をしてたじゃないですか。 「してましたね。その時も言いましたけど、今回『THE END』というタイトルにしたかったんですよ」 ーーでも、送られてきたニューアルバムの資料には、それとは真逆の言葉が記されていて。前向きな気持ちも込められたタイトルになりましたね。 「そうですね。でも、いまだに『THE END』という言葉が、一番似合うアルバムだなと思ってますよ。ワンマンの時にも言いましたけど、別にバンドが終わるとか、そういうことではないけど、とりわけ今回は、〈終わり〉というものを、すごく見つめたアルバムになったなと思うんです。かといって『Hope Hope Hope』というタイトルは、妥協したというわけではなくて、僕の中で〈Hope〉には、そういう意味も込めているというか。ただの希望ではなく、前提がある上での〈Hope〉であって」 ーーその前提にあるのは、〈終わり〉というものであると。 「はい。だから〈希望だぜ!〉みたいな前向きなものではないです。センシティヴな話ではありますけど、終わりに対して希望を持つ人も確実にいるわけじゃないですか」 ーー終わることによって解放されるんじゃないか、と思う人もいるっていうことですよね。 「そうです。そういうことに対してすごく考えてたのが、このアルバムを作ってる時期だったんですよね」 ーーそれは、『Heavenly Heavenly』を出したあと? 「あとです。去年5月に対バンツアーを廻って、そのあと6月に中国ツアーをやって……日本に帰ってきたぐらいから、何に対しても気力がない、ベッドから起き上がれないみたいな状態になって。今の状況から解放されるためには、何かを終わらせる必要があるんだろうなと思ったんですよね。それは、バンドを辞めるのか、音楽を辞めるのか、それとも自分の生活自体を変えるのか。何かしらの変化、区切りを一度つける必要があるなって考えた時期があって……そこで〈終わり〉に対してすごくポジティヴに考えることを経験したのもあったから、〈Hope〉という言葉が出てきたというか」 ーー『Heavenly Heavenly』の時、ずっと終わりに対する恐怖があったけど、終わりの先にあるものに意識がいくようになったというような話をしてくれたわけだけど。 「そうですね。だから『Heavenly Heavenly』の時に感じた、終わりの先にある希望も含まれてはいます。だから……すごくいろんな意味が含まれてる〈Hope〉かなって」 ーー前回のインタビューで、バンドの状態が前向きだからこそ、自分自身はどうなんだ?ってことに気付かされることが増えて。それが「Snow/Sunset」の〈息を止め、ふと気づく〉というフレーズに繋がってる、という話をしてたんですね。 「ああ、そうですね」 ーー今回のアルバムの曲順だと、「Snow/Sunset」の前に配された「Monologue」という曲は、その時に話していたことに、わりと通じる内容だなと思って。 「この曲に関しては、ツラツラと自分が思ったことだけを書こうと思ったんです。だから本当にその時の心情が出ているというか。〈まだ、だいじょうぶ〉っていう最後の一行から作り始めたんですけど、〈まだだいじょうぶでしょ!〉っていうより〈まだだいじょうぶかな?〉っていう感じで、〈もうちょっと頑張れそうかな……?〉っていうイメージから書き始めて。そこで、〈自分はなんでポジティヴっぽいネガティヴになっているのか?〉って考えたりして」 ーーポジティヴっぽいネガティヴ(笑)。 「その疑問から派生させて曲を作っていく中で、〈なるほどな〉と思ったところもあって。一秒前の自分と今の自分って、明らかに何かが違うわけじゃないですか。それこそ、その時の血中酸素飽和度も違えば、心拍数も違っていて」 ーーそうですね。生物として、細胞分裂を繰り返しているので、同じままではないですよね。 「だけど、ふとした瞬間に今の自分が過去の自分とぴったり重なるというか。過去の自分と今の自分の心情がピタッと重なった時に、自分は過去を客観的に見ることができたり、肯定できたりするのかなって思ったんです。だから、〈まだ、だいじょうぶ〉って言葉が出てきたのは、それが要因な気がしていて」 ーーいつかの自分と今の自分の気持ちが重なった。 「そこから……例えば、匂いをふっと感じた時に、前にその匂いを感じた時の自分とか状況が蘇ったりするじゃないですか。そういうきっかけになるもの、匂いみたいなものを、自分は曲にしたいなっていうところから、ギターを弾いて出てきたメロディを元に〈Monologue〉は作っていったんです」