ドキュメンタリー製作者、AIの倫理的使用でガイドライン発表
米国のドキュメンタリー製作者グループが、アーカイブ素材の使用に関連する生成AI(人工知能)の倫理的利用についてのガイドラインを発表した。この動きは、急速に発展するAI技術がドキュメンタリー映画製作に与える影響への対応策として注目を集めている。 米ハリウッド・レポーターの報道によると、2023年に設立されたArchival Producers Alliance(APA)が、メイン州で開催されたカムデン国際映画祭でこのガイドラインを公開した。同映画祭は、ドキュメンタリー映画業界で重要な位置を占める年次イベントだ。APAは300人以上の研究者、制作者、受賞歴のある映画製作者で構成されており、ドキュメンタリー製作における倫理的なAI利用の基準を設けることを目指している。 ガイドラインの策定は、AIがドキュメンタリー製作、特に歴史的写真やビデオ映像などのアーカイブ素材の使用に与える影響への懸念から生まれた。APAは、AI技術の進歩により、映像の改変や生成が容易になるなか、歴史的事実の完全性を保つことの重要性を強調している。 ガイドラインの主要ポイントには、一次資料の使用推奨、アルゴリズムのバイアスへの配慮、AI生成画像を使用する際の明確な開示などが含まれる。特に、AI生成画像にはウォーターマークを付けるなど、視聴者に対して透明性を確保することを求めている。 APAは同時に、複数年にわたる教育イニシアチブも発表した。このプログラムでは、全国でトーク、パネル、ワークショップを開催し、ドキュメンタリー製作者がAI技術を倫理的に活用する方法を学ぶ機会を提供。この取り組みは、Jonathan Logan Family Foundationの資金提供により実現した。 業界からの反応も好意的だ。著名なドキュメンタリー監督のケン・バーンズは「APAの取り組みは、過去を振り返りつつ今日の技術を受け入れるものだ。新しい時代の物語作りに不可欠な助けとなるだろう」とコメントしている。 また、「マイルス・デイビス クールの誕生」の製作者であるスタンリー・ネルソンとマーシャ・スミスは、「特に有色人種の表現に関して、アルゴリズムのバイアスに注意を払っていることを嬉しく思う」と述べ、ガイドラインの重要性を強調した。 国際ドキュメンタリー協会、ドキュメンタリー制作者連盟、ドキュメンタリー編集者連盟などの組織も、このガイドラインへの支持を表明している。APAのガイドラインと教育イニシアチブは、急速に変化するメディア環境の中で、ドキュメンタリー製作の倫理的基準を維持しつつ、新技術の可能性を探る重要な一歩となる。この取り組みは、AIとドキュメンタリー制作の共存に向けた業界全体の指針として、今後の影響が注目される。